天国はどこですか?

□商店街
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 ボクは制服のまま、どこかの商店街を歩いていた。夕方だからか、人通りは多めで──中にはボクのような学生もいる。彼らは駄菓子屋さんの辺りで、当たりだの外れだのと騒いでいる。

 しかしその一方でボクは、なにか買いたいものがあって、ここにいるわけではない──そもそもボクはなにも持っていなかった。どういうわけか、持っているはずの学生鞄はどこにも見当たらない。ボクは、知らないうちにここを歩いていた。

 けれども、確かニ──さっきまでは持っていたはずなンダ。

 歩けば歩くほど、なにかを無くしていくような気がしてきて──ボクはぴたりと足を止めた。あともう少しで踏み切りだ。我ながラ変な──中途半端なところで立ち止まった。

 カンカンカンという決まりきった音。降りた遮断機の向こうで、ガーッと電車が通りすぎていく。すぐに元の静けさが戻ってきた。背中の話し声はご愛嬌ということにでもしておくか。

 息を吐いたところで、チャイムが聞こえてきた。どこからだろう。けれどもボクはこれを知っている。「今」が十六時半であることの印だ。十六時半ということは──そろそろ来る。

 線路の向こう側、セーラー服の少女。ボクが気になっている子ダ。隣のクラスの子。よくは知らないけれど、気付いたら目で追っていた。たまに目が合ったときに会釈しているから、向こうもボクを知っているだろう。記憶力が壊滅的でさえなければ。

 ふっと風が吹いて、そこでヘッドホンが片耳だけ外れていることに気付いた。凡雑な音が漏れてる。雑音のようなメロディー。どうして外れたんだろう──音の訴えは、ボクに届かなかった。

 帰ろうと思って踵を返した先の商店街は、もうちらほらと灯りが点き始めていた。目が眩んで──気が付けば、ボクはどこかの河川敷に立ち尽くしていた。

 どうも──帰れナイ、みたいダ。
 

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