「肉体と精神だけがあって名前がないってのは──どんな気分なんだ?」
「それはあんたの方がよく知っテンだろ」
「きみの気分が聞きたいのさ」
「んなもん、言うまでもなく聞くまでもなく、答は一個に決まってンダろうがヨ──」
ボクは大いに笑って──答えた。
「死にたい気分だ」
──────────……
─────……
──……
いーちゃんとの会話を少しだけ思い出したボクは──次にあのシーンを思い出す。
あの時と全く同じだ。身体の調子も、制服の皺も、帽子の感じも──全部。違うものは心の中。場所だって違うけど、どこだろうと変わらない。ただ──来るのを待っていた。
校門の閉ざされた門扉の目の前には線路──駅だ。遠くの景色はぐにゃぐにゃと見るたびに形を変えてくる。
空は真っ黒だ──真っ暗いんじゃなくて、黒かった。塗りつぶしたみたいに星のひとつも見えない。それはそうだ。まだ、十六時半なんだから星なんて見えない。また、十六時半。
世界が壊れそうなくらい大きな音が聞こえてきて──ボクは一度下げた顔を上げて、音の発信源に目を向けた。
向こうからやってくる──真っ赤な電車が、加速しながらやってきていた。あれは急行列車じゃないから、この駅で止まる。ここが目的地だから、ここで止まる。でも、加速するんだということをボクは知っていた。
それに跳ねられるか──今回は選択肢があった。今ボクがいるのは線路の外。進行方向に定められていない──全くの外部。ボクはまだ生きているから。今ごろ大怪我重傷でどうにかなってるんだろうけれど、あいにくボクはネ──
──ノイズくん。
「……ウン」
ボクはきちんと理由を持って、きみを殺したんだ。大好きなきみに、ボクの決意を揺るがさせないために。
それから──きみに、言い忘れたことがあった。とてもじゃないけど、ボクにとってはどうでもいいこと。だけど、どうしても言ってやりたかったこと。
死んだらそこで終わり、消える。だから──ボクは死にたがったンダ。
「天国なんテ──あるわけナイだろ」
ボクは、駅に飛び込んだ。