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□クルルと夏美の先輩戦争
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先日、愛しの先輩に言われた言葉を反復した夏美は黄色の生き物、クルルを凝視した。


(こいつの何処が…)


半ば睨みつけるように見つめても、おびき出す為に渡したカレーを頬張るばかりでコチラを見向きもしない。

せめて、有難うだの美味しいだのと言えば可愛げを見いだせるかもしれないというのに。

いや、天変地異の前触れの間違いかもしれない。


それでも、恋する乙女的には好きな人の趣味を理解し近付く努力がしたいのだ。


(そもそも、先輩はコイツの何が可愛い訳?)


メガネっ子が趣味?

それとも頭の良い子が好き?

運痴な所?

インドア派な所?


「って、アタシと正反対じゃない…。」

「さっきから何をブツブツ言ってんだぃ?」

「え、」

「頭ん中ダダ漏れだゼェ。」


言われて初めて、声に出している事に気が付いた。

ついでに、いつの間にか陰険蛙はカレーを食べ終わっていたらしい。


「因みに、先輩はコイツの何処がってトコはそっくりそのままテメェに返す。」

「…何よ、それ。」

「そのまんまの意味だっつーの。」


これだから頭の良い奴は分からない。

きっと勝手に自己判断して自己完結しているに違いない。

食い下がれば馬鹿呼ばわりするに決まっている。

気にするだけ無駄だ。


「まぁ、良いわ。先輩の為だもん。」


そう言って、夏美がもう一度クルルを観察しようとすれば、当のクルルがため息をついた。


「真似なんて無駄ダロォ?」

「はいはい、乙女の心なんてアンタには理解できないわよ!」

「つーか、睦実の好きは恋愛の好きじゃねぇし。」

「うっ…」


まさに、その通りだが藁にもすがるようなこの乙女の気持ちが蛙ごときに理解されては堪らない。


しかし、次に告げられたクルルの言葉に一瞬にして思考が停止した。


「つーか、先輩はアンタのじゃネェか。」

「な、なに言って…えぇっ!?」


先輩が?

自分のものだと、目の前の蛙はそう言ったのだろうか。
信じられない。

空耳だと言われた方がよっぽど信憑性があるというものだ。

夏美は衝撃のあまり、目をパチクリさせてクルルを見やった。


しかし、クルルは何処までも嫌な奴である。

徐に取り出した端末を操作して、嫌味な笑みを夏美に向けてくる。


そして、


『もしもしクルル?珍しいじゃない、君から連絡なんて』

「せ、先輩!?」


端末から聞こえてきたのは、大好きな先輩の嬉しそうな声。

そして、眼前には勝ち誇ったような陰険メガネ。


「今からお前ん家行くからカレー用意しとけヨ?」

『はは、了解。』


短い会話で切れた通信に、余計に仲の良さをアピールされた気がして、夏美は苦虫をかんだ。

なんなんだ、この蛙は。


しかし、クルルはそんな夏美にお構いなしにちょこんと立ち上がると扉の前でクルリとコチラを振り返った。



「俺は睦実を先輩だなんて言わネェぜ?」



夏美の投げたクッションは、虚しくも扉に命中した。





クルルと夏美の
先輩戦争





嫌がらせ?


いいえ、


何時もの仕返しです。

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