CHAIN HEARTS〜心をつなぐ者〜
□紡ぐ者
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「うーむ、いい香りだ」
この村の村長、キセ・バジルは様々なハーブティーを作り、匂いを堪能する。
「レモンバームとスペア・ミントの組み合わせはすっきりするのぉ...」
すぅーと息を吸い込み吐き出す。実に気持ちいい。
「さて、ではいただくとするかのぉ。ふぉっふぉっ」
ハーブティーの入ったカップを手に取り、口元へと運ぶ。と...
「村長!!!」
ガシャアンッ!!!カップが割れる音が室内に響く。
「な...何事じゃ!?カップを落としてしまったではないか!!(汗」
「村長!!!」
がっ!!!とジゼルは村長の肩を掴み上下に揺さぶる。
「ちょっ!!ジゼ...ルっ」
村長は激しく揺さぶられ、まともに話をする事も出来ない。そんな村長に気づかずジゼルは揺さぶる
「決めたんだよ!!」
「......」
返事がない。
「村長?」
揺さぶりが収まる。
「っは!!?三途の川が見えたわい!!危なかった!!(汗」
年寄りに何するんじゃあ!!とキセは声を荒げる。...が、そこには瞳をきらきらさせたジゼルが居て...。
「今日に決めたんだよ!!出発の日!!」
キセは耳を疑った。ずっと小さい頃から面倒を見てきたジゼルが今日旅立つ。キセにとってジゼルは自分の孫と変わらなかった。子どもの成長は年寄りにとっては目を背けたくなるほど眩しすぎる。でも、それが微笑ましい事をキセは知っている。
「寂しくなるのぉ...」
キセはほんのかすかな声でそう言った。 「ん?何か言った?村長?」
「いや、何も。それよりお祝いをしなければ」
「え〜いいよそういうの。直ぐに出発したいし!」
ジゼルは好奇心でそわそわしている。そんな様子のジゼルを見てキセは笑うと
「まぁそういうでない。暫く会えなくなるんじゃ。年寄りに思い出の置き土産くらい置いて行っておくれ」
流石にジゼルはキセの思いを汲み取ったのか優しい表情で静かに頷いた。
村中の人々が広場に集まっている。ジゼルの旅立ち祝い中だ。
「ジゼル、こっちにおいで」
「何?村長?」
キセはジゼルを村の教会へと案内する。 「中へお入り」
「うん」
教会の中に入るのは初めてだった。教会へは18にならないと入れなかったから。中は...
「すげぇ...」
とても綺麗だった。ジゼルの口から深い息が出るほどに。一つ一つ繊細に描かれた天使の絵。全ての人々を癒す女神の微笑み。体が軽くなった気がした。
「ここは聖域じゃ」
「聖域?」
「うむ。ここに祭ってある守り神は何事にも微動だにしない希望の光...聖獣・赤石獣<カーバンクル>。この村は赤石獣のおかげで魔物の進入を防いでいられるのだ」
「魔物...」
聞いた事がある。自分は村から出た事がないが、外の世界には、人間を襲う化け物、魔物がいると。
「そう、外の世界には魔物がうじゃうじゃおる。下手すれば死ぬ世界じゃ」
「死ぬ...」
「じゃが、戦の心得があればべつじゃ。ジゼル、お前は得意な戦闘があるだろう?」
「......」
「怒らないから出してごらん?村の秘宝を」
それを聞いたジゼルは少しバツが悪そうに服をめくる。するとそこには、ジゼルの体に固定された2刀の折りたたみ式短刀の姿があった。