テニポケ
□それぞれの日常
2ページ/4ページ
「なんだか慌ただしい奴だな」
「赤也先輩は前から真田ジムリーダーを倒して次のジムリーダーになるんだって言ってたでヤンスから」
少年は困り顔でそう言いながらモンスターボールを投げた。中から元気良くキモリが飛び出す。
少年はキモリを抱き上げてニコニコしながら話しかけた。
「初めましてでヤンス!!今日から君のトレーナーになる浦山しい太でヤンス」
『キャモ!!』
キモリも嬉しいのか返事をするように鳴いた。どうやらお互いに初対面で気があったらしい。
キモリを受け取った少年は、そのまま赤也を追いかけると行って研究所を後にした。
「何だかすごいトレーナーが誕生しちゃいましたね、柳博士」
「誰もいない時に敬語はやめろと言ってるだろう。その、柳博士って言うのも落ち着かない」
残ったモンスターボールを片付けながら柳が言った。
2つのストライプ柄のマグカップにお茶を注ぎながら、斉雅は拗ねるような言い方の柳が可笑しくて、バレないようにこっそりと笑った。
「ごめんごめん、つい流れに釣られちゃってさ。はい柳兄、お茶」
「あぁ、すまないな」
お茶を受け取った柳は、斉雅が座っている隣の椅子に腰掛けた。それまで斉雅の頭の上で気持ち良さそうに留まっていたテテが柳の膝の上に移動する。
「テテ、いい加減頭の上に乗る癖直してもらわないと俺の首が保たないよ」
首をさすりながら困ったように言う斉雅。そんな主人をお構いなしに、テテは柳に頭を撫でられて気持ち良さそうに微睡んでいる。マイペースは主人譲りらしい。
柳はその様子を慈しむように眺めていた。両親が共に研究者ということもあり、昔から家族という存在に余り執着がない美春が、こうして何気なく過ごせていることを、柳自身嬉しく思っているからだ。他人から見ればシスコンと言われるかもしれないが、我が家ではそれ位が丁度良い。美春の側にいてやれるのも、守ってやれるのも、俺だけなのだから。
「まあまあ、それ位にしてやれ。進化したら頭どころか肩にも乗れないんだから」
「確かにそれもそうか。あ、そういえば明日はセイシュンシティーにポケモン届けに行くんだよね」
斉雅は壁に掛かっているカレンダーを見ながら言った。明日は休日の第三土曜日、毎月この日は柳兄がセイシュンシティーにいる乾博士の研究所にポケモンを届けに行く日なのだ。
柳兄と乾博士は昔からの研究仲間で、博士になってからも頻繁に交流するほど仲が良い。
「あぁ、明日はポケモンを届けに行くだけじゃなく今開発しているポンディーについても話し合う予定だ」
柳兄は微笑みながら白衣から飴玉を取り出し、テテに差し出した。それを嬉しそうに食べるテテ。
ポンディーとは、ポケモン用の飴玉状のお菓子の事だ。木の実をポンディーメーカーと呼ばれる制作機に入れて作る事が出来る。
使う木の実や組み合わせによって味やポケモンに与える効果が異なる為、今はポンディーの組み合わせの種類を解明している段階だ。