凰エリ
□キラキラ輝くそれは
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【エリカside】
「明日、卒業か」
「…せやなぁ」
「3年間、早かったな」
「…せやなぁ」
「話聞いてるか?」
「…せやn「聞いてねぇだろ(笑)」
頭を小突かれる。
えへへ、と笑いながらも気が気じゃない。言わなきゃ。言わなきゃ。第二ボタン欲しいって。
「な、なぁっ、凰壮くん」
「ん?」
「……や、やっぱなんでもない」
駄目だ。うちの意気地無し。
断られるのが怖くて言えなかった。
凰壮くんのことだ、ボタンの競争率は尋常ではないだろう。それに、もうあげる子決まってるかもしれへんし。
そんなこんなで家に着いてしまった。
いややなぁ、このまま卒業か。
電話しようかなとか、メールしようかなとか、何度か頭に浮かんだが結局何もできなかった。
〜翌日〜
卒業式が終わり、プレデターの皆で写真を撮るために集まった。
少し遅れてきた凰壮くんを見て、後悔の念に駆られた。
彼の学ランには、第二どころか、ボタンが一つも残ってなかったのだ。
昨日の自分を殴ってやりたい。
涙をこらえて懸命に笑顔をつくり、写真撮影を終える。
このままだと胸の苦しさとか悔しさとか伝えられなかった気持ちとか、とにかくいろんな感情で壊れてしまいそうだ。
皆に別れを告げ、足早にその場を立ち去る。
【凰壮side】
気付くと高遠の姿がなかった。
よりによってこんな時にスピードスターの本領発揮すんなよ。
「あ、あの、凰壮先輩っ!ボタン…」
「わりぃな、全部なくなっちゃった。んじゃ」
見覚えのない女子生徒を適当にあしらい、一人帰路につく。
公園の前を通りかかった時、ベンチに探していた赤っぽいポニーテールが見えた。
「おい高遠………げ、泣いてるし」
「見んといて」
「お前なんで泣いてんだよ」
「うるさい…何しに来たん?」
「ちょっと、な」
「会いたくなかった」
「何それ傷付くんだけど」
緊張を隠しつつ、彼女の隣に座る。
「高遠、あのさ」
「何?」
ようやく泣きやんだ彼女がこちらを見る。
「本当はもっと早く言いたかったんだけど」
一呼吸おいて、綺麗な茶色の瞳を見つめる。
「俺、お前のこと好き」
見つめていた茶色が揺れた。
たまらなくなって、口付ける。
気付かれないように、握りしめた右手を彼女のブレザーのポケットに突っ込む。
口を離すと、目の前には再び泣き出しそうな顔。
「…嘘つき」
「は?」
「ボタン全部取られた人の言うセリフやない」
「全部は取られてねぇよ、ばーか」
「?」
「そん中、見てみ」
彼女のポケットを指さす。
【エリカside】
言われるがまま、ブレザーのポケットに手を突っ込んでみる。固くて丸い感触。さっきまでハンカチしか入ってなかったはずなのに。
取り出してみると、まぎれもなくうちの学校の学ランのボタンだった。
「俺の、第二。取られないようにすんの大変だったんだからな」
「なんで…」
「お前にやるために死守したんだよ、わりーかよ」
「うぅ…うわあぁーん」
「おいおい、また泣くのかよ」
「うるさいばか、凰壮くんなんて嫌い…嘘、大好き」
「知ってる」
再び口付けられる。
ふわっ、と風に舞い上がった桜の花びらは、二人を祝福しているかのようだった。
終