虎玲
□黄色い季節
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彼がスペインに旅立ってから、もうどのくらい経つだろう。
−−−すっかり日が短くなり、暮れかかる夕日の中を玲華は歩いていた。
すれ違った仲の良さそうなカップルを横目に、思わず溜め息をつく。
「…虎太くん、元気かな」
11月の冷え込んだ空気は、玲華の寂しさを増幅させるようで。
…特に行き先があるわけではない。
普段一人で散歩なんて滅多にしないのに、なぜだか今日は外を歩きたくなったのだ。
ふと気付くと、イチョウ並木にたどり着いていた。
こんな遠くまで来るつもりはなかったのに。
秋になり色を変え、多くが散ってしまったその葉は、通りを真っ黄色に染めていた。
いつの間にか一番好きになっていた色。
一面に広がるその色を踏まないように、一歩一歩、地面から目を離さずに落ち葉の間をぬって歩く。
すると、突然現れた人影。
「きゃっ!?」
足の置き場を失い、前方に倒れ込む。
目の前に広がる黄色を見て、自分が転んでしまったことに気付く……あれ、でも、痛くない。
痛くないどころか、私、転んでない?
不思議に思い、顔を上げる。
「…ちゃんと前見て歩けよな」
そこにいたのは、大好きな人。一番会いたかった人。ここにはいないはずの人。
「え…」
「よぉ」
「な……なんで?」
「帰省許可出たから…お前こそ、なんで一人でこんなとこ歩いてんだよ」
「分からない」
「は?」
「分からないけど、今日はなんとなく歩きたくなったの。気付いたらこんな所まで来てたの」
一瞬きょとんとした表情を見せた彼が、ふっと笑った。
「相変わらず何かもってるな、お前」
再び視界が黄色に染まる。
触れた温もりが、心まで暖めていく。
「…ただいま、玲華」
「おかえり…虎太くん」
終