GS長編

□二人で歩く未来
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俺は医者に「糖は週1!」と言われ、毎週月曜日はジャンプ片手にパフェ(いちごとチョコを隔週で)を味わうと決めていた。

だがあの日、狭い路地裏で泣いていた甘味処の新人君を見かけてから、俺は月・木と週に2日は店に通った。
相変わらずパフェは週1だけども、少しでも話が出来れば良いな、せめて俺のこと覚えてもらえたら良いなと、ドリンク1杯飲むだけなのに地道に通い続けた。

何か俺片思い中の中学生みたいじゃん!
友達の姉ちゃん好きになっちゃった中学生みたいじゃん!
いやいやいやいや。違うからね、これは断じて違うから。
恋とか片思いとか、そういう甘酸っぱい感じのあれじゃないから。
結構爛れた関係を、何度も経験しちゃってるような大人だから。

ほら、俺ってばコレでもヒーローだし、ってか万事屋だし。
なんつうの?泣いてる人を放っておけない的な?
“万事屋”っても基本猫探しだけど。

自分で言うのもなんだが、俺ってばヒーローの宿命なのか、顔立ちはいいと思うんだよね。
声だって中身の人のおかげで、低音ヴォイスまで抜群だし。
見せられないのが残念だけど、糖好きの割には腹筋だって割れちゃったりなんかしてるし。
何よりこの銀髪!目立つだろ!色が!形が!
なのに!なのにぃぃぃぃぃ!!

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「・・・1人で」

いつも1人で来てるのに、何このご新規様的な感じ!?
超が付く程真面目なマニュアル人間なのか?
それともこの動物園の中なんかじゃ俺如き目立ちませんか?
おい眼鏡!その透明の板の向こうに目玉付いてるよな?

「ご注文はお決まりですか?」

「・・いちご牛乳」

「男の人なのに変わってますね」

それもう46回目ぇぇぇぇぇぇ!

この眼鏡くんが毎週現れる俺を覚える気配はない。
通い始めて5ヶ月は経っている。
なるほど仕事が出来ないわけだ。
この記憶力のなさ。犬だって顔くらい覚えるもんだぞ?

「新八てめぇぇぇオーダー間違えてんじゃねぇか!銀髪のあの人はバナナミルクじゃなくて、いちごミルク!何回言ったら覚えるんだ!!」

「す、すみません。剣なら・・・・」

「うるせェェェェェェェェ。剣だろ剣。知ってるよ!!!面接から知ってるよ!!!」

厨房からチラチラとお玉が見えている。
お玉の先には禿げ散らかした店長がいるんだろ。

「あ〜〜〜店長。俺ァ今日バナナの気分なんだ」

「そ、そうでしたか・・」

お玉をぶんぶん振り回してた店長が舌打ちをしながら、厨房へ引っ込む。
すると眼鏡くんがそっと俺のところに来て、

「すみません。次こそいちご牛乳お持ちしますから、良かったらまたお越しください」

と、そっとバナナミルクを置いていく。

君・・そう言って次回も覚えてたことないじゃん。

オーダーを間違え、レシピを間違え、会計を間違え、失敗だらけの眼鏡くん。
きっと毎日失敗だらけで、俺が関わった小さな失敗なんて忘れてしまうのだろう。

眼鏡くんを見つけてから5ヶ月。
俺のことはまだ覚えてもらえてないけど、俺は眼鏡くんを少しだけ知った。
まず意外におかん性格で、子供と仲良くなりやすいこと。
意外に負けず嫌いで、毎日怒られてるのに店を辞める気配がないこと。
それから新八という名前ということ。
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