GS長編
□二人で歩く未来
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侍の国
そんなもん取り戻したって、腹の足しにもなりゃしねぇ。
攘夷がなんだ、お上がなんだ、そんなもん俺にゃ興味ねぇ。
死ぬとか生きるとか、情だ愛だ、世の中なんて腐ってばかりだ。
いまが何とかなりゃ、その先なんてどうでもいい。
いまが美味けりゃ、長生きなんていらねぇ。
「店長〜いつもの〜」
「へい」
大体なんで俺が見ず知らずのおっさんに、糖の制限をされなきゃいけぇんだ。
医者?知るかバカヤロー。
俺が糖を止める時は、嫁出来るか死ぬ時って決めてんだ。
「この店も随分と賑やかになったなぁ。動物園ですかコノヤロー」
「天人様を動物とはお客さんおかしな人だ」
「・・・そうかい」
この国は腐ってなんかねぇな。
腐ったのは地球人の方だ。
人間の順応性ってやつはすごいね。あんなに嫌ってた面影のかけらもねぇ。
こんな動物園の匂いの中じゃ、いちごパフェも獣くさく感じる。
「飼育係が足りねぇんじゃねぇのか?それか店内のファブ○ーズ係」
「だから動物じゃねぇよ!心配ねぇよ、今日の午後から新しいバイトが入るからよ」
「・・女?」
「男」
チッ。野郎か。
「そろそろ可愛い女子でも働かせてくれや」
「だったらお客さんが連れてきてくれよ」
そんなもんいたら、とっくに交尾願いの申請出すわ。
「ごっそさん。来週はチョコレートパフェで宜しく」
「毎度」
刺激も安定も求めちゃいねぇ。
でも何か魂の何処かに、風穴が空いている気がして、誤魔化すように今日も原チャリを飛ばしてパチンコに向かう。
時間潰しにもならねぇ。パチンコで華々しく散った後、すっかりペラペラになった財布を懐にしまう。
「・・・あ、忘れもん」
家賃の足しにしようとしていた300円(ねぇよりマシだろ)を封筒に入れてたのに、甘味処に置いてきた。
あ〜ぁ、あれな。これで取りに行ってなかったら、家賃は俺の責任じゃねぇから。
もういっそ無くなっててくれ。封筒の中に3万入ってたことにしたいから(それで家賃チャラにしてもらいたいから)いっそのこと丸ごと全部消えててくれ!
ドンッッ!!!ガンッッ!!!パリパリィィィン!!!!!
「あ?」
「ちょっ、もう!君人間だよね?二足歩行できてるよね?初日から何枚皿割るの???うちはいつから皿割屋に転職したんだコラァァ」
「す、すみません。剣ならもう少しまともに出来るんですけど・・」
「それは聞いたよ、もう聞いたよ。面接の段階からむしろそれしか聞いてないよ。何なの?君は働きたいの?それとも罵倒されたいの?」
「すみません」
おぉあれが噂の新人君ね。ふ〜ん。
メガネの地味なやつ。
「ちょっと・・・ゴミ捨ててきます」
ま、俺にはどうでもいいけど。
「確かここに封筒・・・んだよ、あんじゃねぇか。くそっ、誰か盗む度胸ある奴いねぇのか?」
確かに3枚の硬貨を確認して、妙に機嫌の悪い店長の目に付かないうちにそそくさと店を出ると、店のすぐ隣の路地裏からすすり泣きが聞こえた。
「うっ・・・ひぐっ・・・えっ・・うぅ・」
おいおいおいおいおいおい!
マジかよ!マジでマジのマジなのか!?
こんな真っ昼間から幽的なアノ、アレが出てきちゃったりぃぃぃ。
ないないない。
「ぉぉ〜ぃ、誰かいるのかぁ〜?」
「ぅぅ?」
そこにいたのはさっきの新人地味メガネ・・・どころか、濡れてしまった眼鏡を外し、真ん丸の綺麗な瞳を涙で濡らした、可愛い少年がいた。
「って、可愛いって何だぁぁぁぁぁ!」
「!?!?!?!?!?!?!」
俺は少年に何も話しかけることなく、脱兎の如く原チャリに飛び乗った。
いやいやいやいや、ないないないない。
だって俺ノンケだからね。
俺こんなんでも結構女の子にモテちゃうからね。
目は死んでるけど、顔はキラキラしてっからね。
そりゃ最近はとんとご無沙汰ですけども!
そりゃ男は涙に弱い生き物ですけども!
そりゃデロデロに熟した乳より、ピチピチの張りある乳のが好きだし、この際若けりゃ男でも・・って、
「そんな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「だ・・・れ?いまの人」
この時二人の未来が刻まれ始めた。