銀月短編

□臘月―優しい夜―
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その夜、銀時たち万事屋一同は例によって例のごとく、ひのやに晩飯をご馳走に、というよりたかりにやって来ていた。
にぎやかな食卓の話題はもっぱら、間近に迫った晴太の寺子屋への入学だった。
口では嫌そうなことを言ってはいるが、吉原には同じ年頃の子どもがいないせいもあり、楽しみにしていることが、誰の目からも伺い知ることができた。
父親なんぞいなくとも、綺麗な母ちゃんに綺麗な姉ちゃんがいれば、糞ガキどもにも一目置かれるに違いない。
銀時は、その様子を想像しながら、咽喉の奥で笑った。
晴太は入学式に着て行く真新しい晴れ着―日輪が仕立てたもの―を一同に見せびらかしていた。
日輪の晴太を見る優しい笑顔と晴太の誇らしげな笑顔に何故だか胸が詰まるような息苦しさを覚えて銀時は戸惑った。
ああ、阿呆か。俺は。
その焦がれるような思いの正体に思い当たり、銀時は内心で自分に毒づいた。
渇望しても今さら手に入らないものの一つがそこにはあった。
いくつになっても母親というものに密かな憧憬を抱く自分が馬鹿らしい。
父親も、母親も物心ついたころには居なかった。
というより居た覚えもない。
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