銀月短編

□ノクターン
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眠るつもりはなかったのに、あまりの居心地の良さに少しばかりまどろんでいたようだ。
月詠は、隣は隣で眠る男の寝顔を見つめた。
行かなくては。
そう思うのに身体に優しく添えられた腕の重みやその胸の温かさに心が悲鳴を上げる。
行かなくては。
これは自分の義務、信念、生き方の問題だ。
行きたくない。
これは自分の心の問題だ。
月詠はそっと、男の腕を取ると、それを自分の身体から離した。
いつからだろう。
月詠は、その腕を見て、寂しげに笑った。
以前は、どこにもやらないとばかりに深く抱き込まれて、その腕の中から出て行くのにも苦労していたのに、いつの頃からか、そういうことはなくなった。
仕事だから、見回りの時間だからとその腕を抜け出そうとする度に、口を尖らせ、文句を垂れていた男の姿は、既に何処にもなかった。
すまないとそう思う。
そのうち、呆れられてしまうだろう。
もっと、優しくて気立ての良い、安らげる地上の女がこの男に現れる。
露悪趣味で甲斐性もないし、いい加減な男だが、その魂に触れれば、誰だってこの男を愛するようになるだろう。
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