銀月短編

□鐘ふたつ【後篇】
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「…て、ことだ。オイ、聞いてるのか、総悟?!」
春の快い日差しの中、舟をこいでいた沖田はその声で我に返った。
「はぁ、つまんねェ、くだらねェ話でしょ?ちゃーんと聞いてまさァ」
沖田のその返事にこれみよがしのため息を土方がついた。
沖田は欠伸を一つ漏らすと、立ち上がった。
「おい、総悟、何処へ行く?」
近藤に尋ねられ、沖田は薄く笑った。
「気分悪くなりやしたんで、ちょっと散歩に行ってきまさァ」
「そうか」
近藤のその返事に笑いを一つ漏らすと沖田はひらひらと手を振りながら、座敷を後にした。
襖を閉めながら振り返ると、土方の『仕様がねえ』といわんばかりの顔つきが目に入った。
沖田は皮肉な笑いを噛み殺した。
いつもはサボりだなんだとガミガミ煩く言われるところだが、何も云われないというその事が、沖田を皮肉な思いにさせた。
近藤サンも土方サンも俺が何処へ行こうとしているのか分かっている。
でも止めねェ。
何も言わねェ。
結局は同じ穴の狢だねィ。
「あー、つまんねー、こりゃ」
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