銀月短編

□願望でもなく懇願でもなく
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願望でもなく懇願でもなく

隣の花屋の店先にその花はあった。
いつもはなるべく目をやらずにその店の前を通り過ぎているというのに、その日はたまたま、その花が銀時の目に入ってきたのだ。
中央の鮮やかな黄金色とその周りを囲む柔らかな薄紫色の花弁を持った素朴な花に何となく気が引かれた。
理由は明白すぎて、自分でも半ば呆れてしまう。
――アイツの色だ。
そう思った。
魁偉な容貌をした花屋の店主は、その花に花の名のカードを添えていた。
――シオン(紫苑)
ああ、やっぱり。
妙な納得をして店主に見つかる前に立ち去ろうとした銀時は、そのカードの下に書き添えられた花言葉を目にして、瞬間、胸を衝かれた。
――アイツに似合っている。
それは、願望でもなく、懇願でもなく…意志そのもの。
そうは思ったが、その言葉が気に入らなかった。
今度こそ、足早に銀時はその場を立ち去った。
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