銀月長編

□三下り半の福音
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その日、大安吉日でもなんでもない日。
坂田銀時は志村妙と結婚した。

一人で役所に婚姻届を提出し、それを受理された銀時は、また、一人で万事屋に戻ると、ごろりとソファーに横になった。
万事屋にはあるべき新妻の姿はない。
本来幸せいっぱいの新妻であるはずの妙は、以前と同じように志村の家に居て、ひどく思いつめ、泣きはらした憔悴しきった顔で呆然と虚空を見つめていた。
銀時の義弟となったはずの新八は、部屋に閉じこもったままで、時折、部屋からは壁を力任せに殴る音と獣の様な叫び声が聞こえてくるだけだった。

――その事が、この結婚のどう仕様もない「歪み」を如実に伝えていた。

本格的に激化した地球と天道衆方との戦争は収まる気配を見せず、開戦から一年を過ぎた今、地球はがけっぷちに立っていた。
開戦当初、まず、あれほど五月蝿かった真選組の連中がこぞって町から姿を消した。それを次ぐように柳生家の跡取りとして九兵衛も出征した。号泣する妙に「柳生家の跡取りなんだから間違っても前線なんかにゃ送られたりしねえよ。大丈夫だ」と銀時はそう言うしかなかった。騒がしくて居たら居たで、厄介ごとしか運んでこなかった桂も志願兵として出征していった。あれほど、銀時に付きまとっていたさっちゃんもいつの間にか銀時の前にあらわれなくなっていたし、それはしょっちゅう、残り一冊のジャンプを巡って争っていた全蔵も同じことだった。幕府の依頼で諜報活動に入ったのだろうと推察することしか銀時には出来なかった。
つまりは、銀時の生活を騒がしく彩っていた人間たちが一人、また一人と銀時の前から姿を消していくのを、銀時はただ過ぎ行く風景を見ているかのようにただ見送っていった。
銀時はそれでもかぶき町から、万事屋から動きはしなかった。戦争なんて二度と御免だったからだ。自分に護れるだけのものを取りこぼさないようにとそれだけを願って、日々を過ごしていた。
神楽は、天人というのもあり、心配した銀時や周りの者、父親に説得されて、半ば半強制的に父親の元に定春ともども返されていた。
最後まで、泣いて喚いて暴れていた神楽のことを思うと胸が痛んだが、銀時はそれが最善だと信じて疑わず、ただこの激流が早く終わってくれることだけを一人になってしまった万事屋で願っていた。
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