銀月長編

□【中編】
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「夜でもいいぜ?」
そう言った銀時に新八と神楽はあくまで昼のうちに吉原に行くことにこだわった。
怖いけれど、見えるものなら見てみたいという二人に、物好きな奴らだと銀時は首を振った。
夜より昼の方が月詠さんも手すきでしょ?と新八がそう言って、結局、万事屋一行が吉原を訪れたのは、翌々日の昼過ぎのことだった。
ひのやを訪れると「もう分かったのか」と月詠は目を丸くした。
「楽勝。万事屋の調査能力なめんなよ。コノヤロー」
じゃあ、早速と、ひのやの奥に招きいれようとした月詠を銀時が止めた。
「こいつら、物好きにも幽霊が見たいんだとよ」
「しかし、ぬしらには見えぬと思うのじゃが」
複雑そうな顔をした月詠に「俺もそう言ったんだけどな」と答えながら、銀時は店先の床机に腰を下ろした。
結局、昼間は設備点検という名目で一時営業を中止することにしたという吉原の街は人気も少ない。
「滅多にない機会じゃから、本当に全店挙げて設備点検をしておる」と月詠はそう言って、茶と団子を運んで来た。
「昼寝でもしてりゃいいのに」
「そういう訳にもいかん」
そりゃ働き者なこって、ぬしの様な怠け者と一緒にするな、などといつもの様な遣り取りを銀時と月詠が交わしている隣で、新八と神楽はモノも言わず、通りを凝視している。
その様子に気付いて、銀時と月詠は互いに目配せをしあった。
二人とも、まだまだ母親が恋しい年齢で母を亡くしている。新八と神楽が今回のことに肩入れする気持ちは分からないでもないと声に出さずとも同じことを思いながら、銀時と月詠は通りに目をやり、視界に入って来たものに「ひっ」「あっ」と同時に声を上げた。
「出たアルか?!」「どこですか?!」と同時に叫んだ二人に銀時は、通りを指差した。
「ほら、あのソープの前」
「今、丁度、遊女に話しかけておりんす」
銀時と月詠の目にはしっかりと若干透けつつも老婆の姿が見えているが、やはり新八と神楽には見えなかったようだ。
「見えないアル」
「一人で誰かと話しているようにしか…」
戸惑ったような言葉が返ってきた。
「ほら、オメーらには見えねえって言っただろうが」
あんなモンが見たいなんて物好きにも程がある。
「神楽ちゃんは、星海坊主さんがいるからともかく、僕は見えるかと思ってたんですけどね。父も母もかなり前に亡くなってますし」
そう言って、茶をこくりと口にした新八に月詠が優しい目を向けた。
「新八にはお妙がおりんしょう?父御の縁も母御の縁も、お妙がぬしにしっかりと繋いでくれておるのじゃ」
月詠の言葉にポカンとした顔を見せた後、新八が口元を綻ばせるのを見て、銀時の口元も緩む。
大嫌いな幽霊が目の前をウロウロと彷徨っているというのに、ひどく暖かい心持になって、そんな自分がひどく照れくさくなった銀時は団子の串を掴むとガブリと食らいついた。
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