銀月長編

□【二】
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女は夜中にそっと起き出した。
月明かりで髪を梳る(くしけずる)とその長い髪を一つに緩くまとめた。
物音を立てぬように気をつかいながら、着替えを済ませ、女は念のため布団の中に丸めておいた薄い布団を横たわらせておいた。
さあ。
女は密やかに笑った。
ぬしが言ったとおりじゃった。
運が悪けりゃまた会えると。
その通りになりんした。
わっちはほとほと運が悪い。
それでもぬしに会えるなら、運の悪さも悪くない。
女…つくよは、寝所に面した襖を開けると月明かりの庭に降り立った。


男は寝転がって目を閉じたまま、自分の頭に触れた。
そこには自分の癖の強い髪の感触があるだけだった。
『角が生えてたらいい』とそう言われたのはいつのことだったか。
昨日か、去年か、それとも百年前か。
それすらも定かではなかった。
残念だったな。つくよ。
まだ角は生えては来ないらしい。
『運が悪けりゃ、また会える』とそう約束して別れた子ども。
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