銀月短編3

□半熟時代【後編】
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まあ、アレだ。冷静に考えれば、この「俺」も過去を懐かしむような年になったのだろう。懐かしむことさえ許されないような思いを抱く自分とは違って。
深い意味などないはずだ。
単純に、5年前の月詠の姿が懐かしかった。
もしくは、縁が切れた。
もしくは……。
どんどん地盤沈下していく思考を首を振って払い飛ばし、柏餅をがぶりと齧った。かぶりついた餅の柔らかさと餡の甘みが気持ちを慰める。
考えたところで仕様のないことだ。
時計に目をやれば「俺」の言っていた12時まで、残り20分程度。何もしていないというのに酷く疲れていた。強制的に首を捻られ前に向けられて、目を開かされるような感覚が辛かった。とっとと帰って欲しかった。

神楽が最後の柏餅に手を伸ばして(万事屋に『遠慮の塊』という言葉はない)、重箱の中は綺麗さっぱり空になった。相変わらず見事な食べっぷりじゃと月詠が感心したように言って、空の重箱を元の様に風呂敷きに包みなおそうとするより先に、「俺」が空の重箱を持って立ち上がった。
「銀時?」
「乾かねえうちに洗っておいた方がいいだろ?乾いた餅は手ごわいからなァ」
俺とは思えねえ「俺」の言葉に神楽や新八、月詠はおろか、俺まで驚いた。
「どうしたんじゃァァァ??!!銀時!」
「銀さん!立派になって!!」
「銀ちゃん、熱でも出たアルか?!」
「5年後銀さんを舐めんじゃねえぞ。家事労働は手際の良さが命よ」
ふふんと笑って台所に行こうとした「俺」に「わっちが洗うから銀時は座っていろ」と言いながら月詠が立ち上がって「俺」を追う。ゲッと思ってその月詠を追って立ち上がろうとした俺を、神楽がにや〜と人の悪い笑顔を浮かべながら俺の袖を掴んで引き止めた。
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