銀月短編3

□半熟時代【前編】
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老人にもなった。
猫にもなった。
女にもなった。
記憶喪失にもなった。
体が他人と入れ替わったこともある。
散々な目に会うのは慣れている。でも、今回は「俺」自身に何かがあった訳じゃない。
いや、でも。「俺」自身に何かがあってこうなってる訳で。
いや、でもこれは俺自身の問題ではなくて。
いや…、やっぱり「俺」か?!「俺」なのか!?

「オメー、誰だァァァ!!!!」
起き抜けの絶叫に、食卓で俺の分の朝飯を平然とかっ食らっていた男は言った。
「見てわかんねーのかよ」と。

分かる。理性では。そして理性が理解を拒む。
目をこすっても目の前の光景は変わりがない。
何故なら、薄ら笑いを浮かべた男は、白髪の天パに半分しか開いていない眠そうな紅い目、だらしなく緩んだ眉間、もっとだらしない口元を持っていた。

ああ、そうだ!クソ!鏡で御馴染みの俺の顔!

同じ顔なのになんでこう他人が自分の顔していると、憎々しげに見えるんだろう?
まさか、また誰かと身体が入れ替わったァァ??!!あの騒ぎを思い出して、ぞっとしてフリーズしていた自分の顔とヤツの顔を交互に見つめていた新八が、呆然と「銀さんが二人…」と呟かなかったら、洗面所に自分の顔を確認しに泡食って走っていたところだった。
とりえず、どうやら俺は俺であるらしい。安堵してため息が口から漏れた。

じゃあ、こいつは何だ?誰なんだ?俺は俺だ。こいつも…俺?いやまさか。

「銀ちゃん!とうとう細胞分裂で増えたアルか?!」
同じように驚いていた神楽が大変に失礼な言葉を吐く。
「おい。待て、神楽!俺は原始生物並みか?!ゾウリムシか何かか?!原始人以下か?!増やすならセックスで増やすわッ!銀さん、まだまだギンギンさんだからね!!」
「どっちかが新銀ちゃんでどっちかが旧銀ちゃんアル」
「いや、神楽ちゃん、お札じゃないんだから……。でも、そういや、朝ごはん食べてるほうの銀さんはちょっと老けてる気がしますね」
神楽と新八の目が俺にそっくりの男に集まった。
確かにちょっと、俺より老けてる?目元とか。
「新八、オメー、何気に失礼だな。当たってるけどよ」
朝飯をかっ食らっていた男は新八のその言葉にひとしきりぼやくきながら箸を置くと、にたっと笑ってとんでもない一言をのたまわった。

俺は、5年後のオメーだ、と。5年後の坂田銀時だ、と。
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