2013夏企画

□side月詠___byゆえ様
2ページ/7ページ

明け方まで百華の仕事についていた月詠は、湯浴みを手早く済ませると自室に戻り鏡台の前で髪を梳る。鏡には自分の顔の他に、通りに面した窓が映り込んでいて、その窓からはキラキラと眩しい朝の陽光が差し込み、鏡越しとはいえ目を細めずにはいられない。
月詠は太陽がまた昇ったという至極当たり前のことを実感すると、当たり前ではなかった頃と、それを当たり前にした男が自然と浮かんだ。
しばらく白い頭を見ていない。隣に並ぶ眼鏡をかけた少年も、赤い髪の少女も。

もしかしたら……

手元不如意で腹を空かしていることが多い連中だ、もしかしたら今日あたりひのやに飯をたかりにくるかもしれない。
昨日も一昨日も一昨昨日もそう考えて、男達の姿を吉原の街に探したこと、そして結局見つけられずにため息を漏らした過去の自分に目をつぶって、月詠はもしかしたらと窓辺に寄った。
窓の外には夢から覚めて娑婆へと戻っていく男達と、欠伸を噛み殺してそれを見送る女の後ろ姿がぽつりぽつり。道を掃き清め始めた店もある。いつもと変わらない吉原の朝の光景だ。
月詠は身を少しだけ乗り出して遠くまで目を凝らしてみたが、白い頭は見えてこない。

もう少しだけ、あとちょっと待ってみよう、そうしたら布団を敷いて……

そう思ってはみるものの、上瞼と下瞼が今にもくっつきそうなほど眠たい。
月詠は目のあたりをごしごしと利き手でこすり、ここで寝てはなるものかと粘ったが、繰り返し襲ってくる眠気の波には抗いきれず、ぼんやりとした頭の中で幼子のように「銀時、銀時」と繰り返しながら目を閉じてしまった。

眠る前に、白い頭の男の名を繰り返していたせいだろう。
月詠はなんだか気持ちのいい夢を見た。
あまり覚えていないけれど、夢の中で目を開けるとそこには待ち人がいて、嬉しくて。
低い声で何度か何かを囁かれた。
これが現実だったら、きっと月詠は素直に言うことなんて聞かなかったと思う。
でも、夢だから、銀時の言葉に従った。

ごろんごろん。
そして最後にふんわりと柔らかい物が体にかけられた。
男はくすりと笑ったような気がするけれど、その密やかな笑い声も月詠に心地よさをもたらした。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ