2013夏企画

□side月詠___byゆえ様
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戀とは魂乞ひ、魂取りだ。
月詠は己の袂にちらりと視線を落とし、興が乗ったふりをしてゆらゆらとそれを振ってみる。
これで好いた男の魂がころりころころ転がり込んでくるのなら、この世に言葉はいらないだろう。
だが、言葉なくして叶う戀などそうはあるまい。そう嘯いた男は、晩には吉原へやって来るはずだ。
今朝、暦を確かめたから間違いはない。
月詠は口元に微かに笑みを浮かべると、ひょいと近くの屋根へと飛び上がり仕事へ戻った。

果たして月詠が思った通り、星明りを頼りに銀時はふらりふらりと吉原を訪れた。
銀時の来訪はすぐに手下を通じて月詠の知ることとなったが、だからといって仕事を早く切り上げるような性分ではない。交代の時間まで、いや引き継ぎだ明日の準備だと幾分粘ってから、月詠は帰途についた。
帰宅してからも、汗にまみれた体では気持ちが悪いと湯浴みをして、身支度を整えてと、結局銀時の前に姿を表したのは、銀時が吉原大門をくぐってから一刻も時が過ぎていた。
月詠は自室の襖の前で膝をつき、両手を揃えて襖を開ける。ついと視線を上に上げれば、そこには部屋の主である月詠以上に部屋に馴染んでいる男がひとり、窓辺の欄干に持たれつつ手酌で酒を猪口へ注ぎ入れては、旨そうに口へと運んでいる。

「お帰ェり。遅かったじゃねぇか」

くいと酒を飲み干して、銀時は窓の外から視線を月詠へと移した。

「事前に連絡のひとつも寄越さぬぬしが悪い」

「連絡したって変わりゃしねぇくせに。だいたいさ、もうわかってもいいんじゃね? 銀さんがいつ吉原に来るかなんて」

分かれよと子どものように口を尖らせて言う銀時に、月詠は知らないふりをする。
月の見えない朔の晩は、銀時が必ずやって来るなどということは月詠は知らない。
その日ばかりは夜勤ではなく、遅くとも夜には仕事を上がれるようにしているのは、単なる偶然にすぎない。
素知らぬ振りで、月詠は銀時に近づくとひょいと銀時の左手から徳利を取り上げ、空い杯にとくとくと酒を注ぎ入れた。

「わかんねぇふりですか、別にいいけどね。今日の俺はすこぶる機嫌がよろしいから」

「博打で勝ったか。悪銭身につかずと言うであろう、ほどほどにしておくことじゃ」

銀時はわかってらぁと気のない返事をすると、窓際から離れ畳の上に座り直す。

「ここの窓からだと結構遠くまで見えんのな。おめーが帰ってくるのもわかった。んで、あん時のおめーの気持ちもわかった」

何を言っているのだと怪訝な顔をした月詠に、銀時は昔のことを口にした。
月詠がけぶるような想いに身をやつしながらも、それを伝える言葉を失っていた頃の話。
ふたりが恋仲になる少しだけ前の話。
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