銀月短編2

□いろがわり
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日輪が化粧をするのが、嫌いだった。それは、これから男に抱かれに行くという、そういうことだったから。それでも、日輪が紅を差す姿を見るのは好きだった。
「ほら、月詠」
日輪は笑って自分を呼ぶと、決まってそれを覗き込ませてくれた。
水を含ませた紅筆がその不思議な色に触れると、それは色を変えた。
小さな猪口の中で正反対の色が水で紅く溶かされていくのを、日輪と顔を寄せ合い、まるで手妻でも見ているような不思議な気分で、幼い自分はただ見ていたものだった。
「ほら、月詠」とあの頃と同じようにそう言われ、月詠が日輪から手渡されたのは、寒椿の絵付けが綺麗な小さな猪口だった。猪口の内側には幼かった頃、毎日のように見ていた小宇宙。
まだ、小町紅を作っている職人さんがいたのねえ、と言って日輪は笑った。
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