銀月短編2

□恋文は眠る
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「酷い男じゃ」
何となくそう呟いて、月詠はほうと嘆息を漏らした。溢れる想いで胸がいっぱいいっぱいになって呼吸さえも苦しい。許容量を超えて、溢れ出しそうな想いの染み込ませる先がなければ、次にあの男に会っても顔さえ見ることができないだろう。
どうにかしなければと月詠はむうんと考え込んだ。
押さえても押さえても、この花の香りのように立ち上るそれは、ひどく厄介で月詠を戸惑わせる。

ああ、もう!

がしがしとあの男のように頭を掻いて、月詠は、そうだ、押さえるからいけないのだと、手を打った。一度、この想いの限りを何処かに吐き出してしまおう。
月詠はいそいそと紙と筆記具を用意すると、文机に向かって熱心に何かをしたため始める。

渡すつもりも読ませるつもりもなかったけれど、一字、一字に溢れる想いを託し、その薄葉に染み込ませた月詠の想い、それは紛れもなく恋文だった。
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