銀月短編2

□花園
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喜びと高揚感でなかなか寝付けなかった。
くるまった布団の中でふふふと思い出し笑いをしている自分はさぞかし不気味なことだろうと月詠は思った。
思い立って布団から出て、深夜の冷気にぶるりと一つ身を震わせると、月詠はそっと、一度は、しまいこんだ誕生日の贈り物たちを取り出した。
ひとつまたひとつ。
大切な家族や友がくれたその心づくしの品物を一つ一つ枕元に並べる。

日輪からは見るからに高級品の手触りもうっとりするような薄紫のショール。風邪は首元からひくからね、とそう言われた。気を付けねば。風邪などひいていては勤めに差し障る。つーか、オメー、襟抜きすぎなんだよ、詰襟みてえにきっちり着付けろやと言った腐れ天パのことは無視をした。

晴太は似顔絵。よく書けていて驚いた。笑顔の晴太と日輪とわっち。けれど、わっちはこんなに笑っておらんじゃろう?と首を傾げていたら、晴太、オメー、笑顔盛りすぎじゃね?と要らぬ一言を言ったマダオには一発お見舞いしてやった。

神楽と新八からはガラスの瓶に詰められた飴玉。碌に給料も払わない社長だというのに少ない小遣いからこれを買ってくれたのかと泣けてくる。ストロベリーとグレープ味の飴玉が光に透けて綺麗で、食べるのが勿体無いとしばらく見とれていたら、ダメ社長が何故か毒を飲んだかのような顔をしていたのが、不思議だった。

妙は卵焼きという黒い物体。これはなんじゃ?地上の卵焼きは自分の知っているものと違うのだろうかと首を傾げていたら、血相を変えたニート侍に、絶対食うんじゃねーぞ、死ぬぞと耳元で囁かれ、耳にかかった息の熱さに驚いて、反射的にその白髪頭を畳に押しつけた。

猿飛は綺麗な薄紫のキャンドル。おい、これはSM用低温ローソクじゃろーがと言えば、流石ね、ツッキー、一目で見破るなんて!と猿飛が言うのと同時に、何でオメーがそんなこと知ってんのォォォと叫んだ変態男のことは面倒なので放置した。

九兵衛からは、クナイの携帯用お手入れセット。これで銀時の頭をビンビンに尖ったクナイで存分に刺してやってくれと言われたので、早速、冗談でクナイを構えたら、ビンビンなのは銀さんの銀さんだけで充分なんだよ!とセクハラ発言が飛び出したので、本当にセクハラ侍の頭にクナイを打ち込んでやった。

月詠はその枕元に置かれた一つ一つを寝床に入ってふふふと笑いながら眺め、今夜のことを幾度となく反芻した。

本当に楽しい誕生日だった。

そのお月様への捧げ物の中には、腐れ天パでマダオでダメ社長でニートで変態のセクハラ侍からの贈り物はなかった。万年素寒貧のギャンブル馬鹿に何の期待もしていなかったとは言え、すこーしガッカリしたのはしたけれど、まあ、いいかと月詠は思う。

こうして、自分を祝ってくれる家族や友を自分にくれたのは、紛れもなくあの男なのだから、と。
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