銀月短編2
□形代
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かぶき町の裏通りも裏通り、ゴミ溜めのどん詰まりと言った場所にその工房はあった。
薄汚れた工房はその主と同じく、陰鬱な雰囲気を醸し出していて、ここに来る度に銀時の神経をささくれ立たせる。
「しかし、相変わらずよく出来てるよ」
銀時は目の前の作業台に横たえられたその男の作品を茫洋とした目で見下した。
鴉の濡れ羽色の長い髪。
白い肌に夜の色をした瞳と半開きの赤い唇が艶かしい。
控えめの大きさの乳房を白い肌を際立たせるために選んだと思われる真紅の下着が覆っていた。
なんのことはない、と銀時は首を振る。
髪は金に困った女からインターネットを通じて仕入れたもの。
白い肌もシリコンで瞳はガラス玉。
所謂ところのシリコン・ドールと言うやつ。
定春の胃袋から出てきたビニール製のそれとは出来も値段も雲泥の差だ。
その工房は特殊な性欲処理のための人形を専門に作成する場所だった。
それも、特注品、完全フルオーダーのみを扱うというその世界ではよく知られた工房らしい。現にこの人形もとあるアイドル女優によく似ていた。