銀月短編2

□とつきとおかのこども
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明日の夜、宴会があるから来いやとそう誘ってみたら、しごくアッサリと仕事だから無理だとのつれない返事。
俺の誕生日なんだよとそう言えば、電話の向こうで少し考えた後、「では、プレゼント代わりに誕生日ケーキを買ってやる。昼間なら空いている」とそう月詠は言った。

待ち合わせた場所に月詠は先に着いていた。
相変わらず、時間厳守の固い女だと銀時は思う。
月詠はまだ自分に気付いていない。
人待ち顔をした月詠の前をゆっくりとした歩みで一組の夫婦が横切って行った。
買い物帰りだろうか、旦那は大荷物を抱えて、ふうふう息を切らして歩いている。
片や、嫁の方は手ぶらだった。
旦那を手伝ってやれよということなかれ、女の方は、もっと重い荷物を腹に抱えていた。
ぱんぱんに膨らんだ腹。良くは分からないけれど、臨月近いのではないだろうか。
一歩進むごとに気遣わしげなそれでいて幸せそうな顔をする男は見ているコッチの方が照れくさい。
月詠は、そんな二人の姿をじっと見つめていた。
あの女のことだから、何かあったら、と思って気のないふりを装いながら全身全霊で出動待機しているのだろう。
去って行く夫婦をさり気なく見送っていた月詠が、不意に笑った。
何か面白いことを思いついたような子どもめいた笑みに、銀時は目をしばたたかせた。

なんだありゃ?

幸せそうな姿に微笑ましさを覚えたというわけでもなさそうだ。
後で、訊いてみるか。
喧嘩にならないように訊き出せる術があれば、だが。

「よう」
と声をかけると、さっきまで浮かんでいた笑顔はすうと奥に引っ込んで、銀時を少しばかり落胆させる。
自分を見ているのは、元の無表情に戻った女だった。
「遅い」
月詠は、素っ気無くそう言った。
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