銀月短編2

□艫も舳もなく
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地上側のエレベーターのところで待っていた月詠は、このクソ暑い最中でも、「オメー、サイボーグか?!」と言いたくなる程、涼し気な顔というか佇まいで自分を待っていた。暑さでグダグダになっている自分が可哀想な気がして来る。
「よう」と声をかければ、月詠は開口一番、挨拶より先に「新八と神楽は?」と言って、辺りを見回した。
この女はどうも自分を呼べば、新八と神楽も自動的に付いて来ると思っているらしい。いい年した大人が四六時中、ガキどもと一緒なわけねえだろと何度言っても、月詠にとっては「俺」は「俺ら」で、三位一体の代物らしい。
「神楽は、こんな真夏の真っ昼間からの外出は命取りだし、メガネは夏バテ」
自分も同じようにへばっていて連日、パチンコ屋で涼んでいるなんてことは口には出さない。
月詠は頷くと「毎日、暑いからのう」と手をかざして空を見上げた。
一応、それなりに暑さは感じているらしいとホッとした。
よく見るとサイボーグではない証拠に白い項に汗が滲んでいる。

月詠と二人で地上を歩くのは随分と久しぶりのような気がした。
ちょくちょくコッチでも顔を合わせることはあったが、それは大抵、お妙やらドMやら九兵衛が一緒…というよりもあのアバズレどもに月詠が呼び出されて来た時で、どういう訳だか、月詠は、奴らに呼び出されればホイホイと地上に上がって来る。まあ、あの問答無用の強引さに抗えないのだろうが。
日輪は、そんな月詠を見て、嬉しくって堪らないという顔を見せる。「銀さんのお陰ね」と言う。
そう言ってくれる日輪には悪いが、俺は何もしていない。
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