銀月短編2

□艫も舳もなく
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月詠が自ら万事屋に電話をかけてきて、自ら「行きたいところがあるから付き合ってくれ」なんてひどく珍しいことを言ってきたのは、朝のことだった。
「厄介ごとか?」と尋ねれば「否」の返事が返ってきたので、厄介ごとではないのだろう。
だとすれば、これはまさに椿事、である。何が降ってくるのか、までは分からないが。

珍しく朝早くに起きていたのは、生活を見つめ直そうとか高邁な理想があった訳ではない。単に暑くて寝ていられなかっただけの話である。
だから珍しく、月詠からの電話も自分で受けることができた。

電話を切った後、窓からと見上げた空は、今日も想像力の欠如を疑いたくなる程の「ザ真夏日」でここのところ夕立すらご無沙汰している。そろそろお湿りがあってもいいんじゃねえかと額に浮かんだ汗を拭いながら思った。

だから、と言うわけでもないが、月詠の誘いは、渡りに舟だった。何が降ってくるかは分からないが(クナイの雨でなければいい)、下手な雨乞いなんてものより、効き目がありそうだなんてことを思った。
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