銀月短編2

□目が耳が鼻が舌が
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「ずっと昔の傷じゃから、今は痛くもかゆくもありんせん」
「ほんとう?」
「ああ、大丈夫じゃ」
そうもう一度答えて、月詠は笑った。
今はもう、痛くもかゆくもありんせん。
なぜなら、この傷は…。


睦事の最中も、それ以外の時でも銀時は、月詠の傷跡を触るのが好きなようで、二人になれば、しょっちゅうその跡に手で唇で舌で額と頬の傷跡に触れてくる。
その度に何がおもしろいのかと訝しく思ってきた。
確かにこの傷は、自分の存在意義そのものではあるが、男が面白がるものでもないだろうと、疎んでも仕方がないものだろうと思う。
なのに今も布団の上に肘をついて月詠の横に横たわった男は、覗き込むようにその骨ばった指で自分の傷跡を優しく撫ぜていた。
「何が面白いんじゃ?」
そう問うと銀時は僅かに眉を上げ、その指が止まった。
「何って何?」
「わっちの傷のどこがそんなにぬしの興をそそる?」
「興ってわけじゃねーよ」
銀時はそう漏らすと、止まっていた傷をなぞる指をまた進めた。
「例えばだ」
「うむ」
「俺の目が潰されて」
「もともと半分しか開いておらんじゃろうが」
「俺の耳が引きちぎられて」
「もともと都合の悪いことは一切聞かんじゃろうが」
「俺の鼻がそぎ落とされて」
「もともと酒と甘味にしか反応せんじゃろうが」
「俺の舌が引っこ抜かれても」
「もともとイカレタ戯言しか言わぬじゃろうが」
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