銀月短編2

□悪い鬼
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その日、ひのやにぶらりとやって来た銀時は、そこで腰を抜かすほど、仰天する破目になった。
自分に気付いてはっと振り向いた女の眼には隠し切れようもない涙の跡。
紫の瞳には薄い涙の膜が張り、目尻はこすれて赤くなっていた。
驚きで硬直してしまった銀時の前で、自分を見つめる瞳から新たな真珠がほろりと一粒零れた。
「ど、ど、どうした?!なんかあったのか?!」
この女が泣くなんて徒事ではない。
下で日輪に会ったけど、至っていつも通りだったし、晴太だって変わりなかった。
俺か?と思ってみたが、心当たりは全くない。
最近はデカイ喧嘩もしていないし、そもそもそれくらいで泣くような女ではない。
何か余程、心を痛める何かがあったってことで、それは自分の誇りでもある宝石を傷つけられたということで、それは自分の半身でもあるこの魂とは共有されるべきものだ。
「おい!コラ!答えろ!」
腹の底から湧き上がってくるのは、誰が泣かした、そして、お前はなんで独りで泣くという怒りだ。
細い肩を掴んでグラグラと揺さぶれば、月詠の非難が銀時の耳に届いた。
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