銀月短編2

□夜鴉鳴いた
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カァと一声、夜鴉が鳴いた。

銀時は薄く目を開けると、天井を見上げた。
なんとなく、天井の板目の模様がいつもと見ているものと違う気がして、寝転がったまま、首を傾ければ、障子の色がほの紅く染まっているのが目に入った。
そうか、ここはひのやだった、と銀時は、ぼんやりしながらと寝返りを打って天井に向き直った。
飯をたかりに来たら、雨が降ってきたんで帰るのが面倒になってそのまま泊まったんだっけ。
座敷で共に眠る新八と神楽の安気な寝息が耳に届く。
その息までもが自分とは違う成分で出来ているのではと疑いたくなるほどの暢気で安らかな寝息は、今しがた自分の眠りを妨げた夜鴉の鳴き声とは似ても似つかない。
なんかこう縁起の悪い夢を見ていたような気がする。
嫌な感じに再度ゴロゴロと寝返りを打った。
何時ごろだろうか?
障子の色がまだ、提灯の灯りで紅く染まっていることから見るに明け方ということもないのだろう。
雨はまだ止んではいなかった。
雨音と湿気が座敷の中に忍び込み、湿度を伴った冷えを運んでくる。
食事を終えた後、見廻りに出て行った女のことが気になった。
雨は足場と視界を悪くする。
――何にもなけりゃ、いいけど。
一度、気になりだすと、夢の余韻も相俟って、どうしても眠りの気配が訪れない。
何度も寝返りを打っていると、物音が聞こえてきた。
裏口が遠慮がちに開かれる音に銀時は胸を撫で下ろした。
眠る日輪や晴太を起こさないように気を使う押し殺した足音と気配は、間違いなく月詠のものだ。
しばらく迷った末に、銀時は布団を抜け出した。
顔を拝まないことには、眠れそうにもない。
同じように足音と気配を殺して、月詠の部屋に辿り着く。
夜中に帰って来ることも多いからと、月詠の部屋は日輪や晴太の眠る部屋からは、離れている。
もっともそれは、自分がここに入り浸るようになったことも一因にあるのだが。
『日輪に部屋を替えられた』と困ったように言っていた月詠を思い出して銀時は笑いを押し殺した。
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