銀月短編2

□甘言よりも
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「それにしても、まあ、随分と可愛くなったじゃねぇか」
月詠――今は「月雄」か――は俺の頭の先からつま先までをじろじろと見回した後、面白げに唇に笑みを載せ、煙管の煙を上に向けてふっと吐き出した。
「俺」に煙がかからないようにしてくれたらしい。
さりげない仕草の一つ一つが視線を釘付けにするのは、女であっても、男であってもそうは変わらないらしい。
面白くない。全くもって面白くない。
男の俺よりもずっと男前なことも。
余裕シャクシャクの笑みも。
上から見下されることも。見上げなければならないことも。
全くもって面白くない。
「テメー、随分、嬉しそうじゃねえか」
悔し紛れに月雄に向かってそう言った俺に「艶消しだぜ。その喋り」と失礼な言葉が返ってきた。
事実、月雄は嬉しそうだった。
女の時はあれほど、殺風景な能面ヅラをしているのに、この「月雄」はよく笑った。
「夢が半分だけ叶ったからなあ」
月雄はそう言うと、さっぱりした笑顔で宙に目をやった。
「男になりたかったのか?」
「『なりたかった』って訳じゃねえよ。男だったら良かったのにと思ってただけだ」
「同じことじゃねえか。意味分かんねえ」
「まあ、オマエが女になっちまっては、片手落ちもいいとこだけど」
そう言って月雄は片頬を上げて笑った。
「なんだそりゃ?」
「いや、楽しいだろーな、と思ってさ」
「何が?」
俺の問いかけに月雄はちょっと遠くを見るような目をした。
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