銀月短編2

□乳房
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クナイの簪を抜いて、結わえていた髪を下ろせば、ぱらぱらと髪から水滴が散った。

仕事を終えて、ずぶ濡れで帰ってきた月詠に、日輪は風呂を焚いて待っていてくれた。
温まっておいで、と言う日輪に礼を述べると、月詠はひのやの風呂に向かった。
仕事柄、傘なんぞ差してはいられないから、この時期はこういう日が増える。
脱衣所で雨を吸って重みと色をより濃くした着物を脱いだ。
慣れているとはいえ、雨に濡れた着物は気持ちが悪いのは事実なので、ホッとする。
手甲や、網タイツ、下着を脱ぎ捨てると、月詠は風呂の扉をカラリと開けた。
温かな湯気に混ざって、いい香りがした。
リラックスできるようにとの日輪の心遣いだろうか、ラベンダーの香りがして、月詠は頬を緩めた。

長年の習慣で月詠は、カラスの行水の向きがあり、リラックスなんてものは湯浴みに求めてはいなかった。
風呂に美容や癒しを求めないとなると、自ずとカラスの行水になるのは仕様がない。
ひのやで暮らし始めたころ、あまりのカラスの行水っぷりに日輪に「刑務所じゃないんだから」と呆れられたものだった。
身体を清めることと、冷えていたなら温まること、それ以上は、求めてはいない。
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