銀月短編2

□月影と星影
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――なんで、光なのに影?
その自分の一言で、その日の手習いは、ガキどもが足りない知恵と経験を振り絞る議論めいたものに費やされることとなった。
結局、手習いは全く進まなかったけれど、何か充実したさっぱりした気分が後に残った。
使いすぎて、頭が痛いと言えば、先生は「そういう時こそ糖分です」と言って笑った。


「なんで、光なのに影なんだろーな」
そんな事をふと思い出して、目の前の女に子どもの頃と同じ質問を銀時は投げかけた。
「何がじゃ?」
窓辺で煙管を吹かしながら、夜空を見ていた月詠が振り返る。
なんというか絵になる女だと思う。
窓はもはや、女の道具立ての一種でしかなく、額縁に成り下がった感さえある。
「月影、星影」
自分の返事に月詠は、ああ、と言って考え込んだ。
真面目な性分もあるだろうが、こういう自分の一言にも本気で考え込んでくれるのは、結構、嬉しい。
「成るほど。気にしたことはなかったが、言われてみれば確かにそうじゃ」
「だろう?」
「影は実体なきもの、光もまた実体を持たぬ」
「にしても正反対だろ?」
「うむ。案外、古の者は月や星の実在を信じておらんかったのかもしれぬな。幻じゃと」
その月詠の言葉にぎゅっと銀時は背後から抱きしめた腕に力を入れた。
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