銀月短編2

□傲慢【前編】
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そんな礼など、言われたくはなかったのに、そんな礼なら聞きたくもなかったのに、自分の口から出たのは「良かったじゃねーか」という心にもない言葉だった。

ずっと、手の中にいると思っていた金色の鳥が羽ばたいて飛び去っていったのだと、いや、そもそも、随分前から、自分の手の中になど居なかったのかもしれない。
そんなことをぼんやりと思った。
落とした視線の先にある自分の手の指がひんやりと冷たく凍っているような気がした。


今くらいの季節がやはり一番いい。
星空の下眠るにしても、暑くもなく寒くもなく快適だ。
使い込みによってほどよく柔らかくなった毛布代わりのダンボールを引き上げようとした時、長谷川は人の気配に気付いた。
「長谷川さーん、ちょっと、付きあわなーい?!」
「銀さん?」
「つまみもあるよ?」
目の前に発泡酒の缶を差し出す白髪の侍に長谷川は驚いた。
「奢り?」
「当たり前じゃん」
珍しい。
でも、奢りなら断る理由もない。
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