銀月短編2

□ちりん・ちりん
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ちりん。

指で摘んだ組紐の先で銀色の鈴が涼しい音を立てる。
月詠はまだ宵の口にある吉原の街を窓辺から見下した。
呼び込みの声や男たちの気炎を上げる声で通りは喧騒に満ちている。
なのに、何故だろう?
とても、静かだ。

ちりん。

鈴の音が心を凪ぐ。
月詠の口元が僅かに緩んだ。
この鈴をくれた男は自分の心を凪ぐどころか、いつも引っ掻き回してばかりだというのに。

珍しくも仕事で一週間ほど江戸を離れていたと言って、銀時がやってきたのは、昨晩のこと。
これまた珍しく、「土産だ」と言って、別れ際にこの鈴を放り投げられた。
銀時曰く、魔よけの鈴らしい。
鈴の音には厄を払う力があるのだそう。
――死神に魔よけとは、皮肉か?
我ながら可愛くない言葉を漏らせば、「バカか、オメーは」と呆れた声が返って来て、手の中の鈴を取り上げられた。
そんなこと言うなら返せ、と言われるのかと思って俯けば、再び「バカか、オメーは」と抱き寄せられた。
――ほら、いい音だろーが。
互いの耳元で鈴を鳴らせば。
ちりん。
と綺麗な音がした。
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