銀月短編2

□穀雨・蓮花
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穀雨

ああ、雨宿りかい?軒下じゃあ、冷えるだろ?いいから、入りなよ。
そっちの美人の姐さんも遠慮はいらねえよ。
ああ?寺じゃねえよ。俺も坊主じゃねえし。もう、年でね。身体が利かねえから、ここの堂守してんのさ。
ほら、これが、ここの仏様。
なんだよ?
あんまり粗末な仏様で驚いたかい?
でもな。これが俺らの仏様なんだよ。
寺にある立派な仏像じゃなくっても。これが、俺らの仏様なんだよ。
元々、手を合わせて拝む仏様の一つもないこの辺りの連中のために旅の仏師がその辺に転がっていた木っ端で彫ったって聞いてるよ。
さあね。
名もなし、金もなしのないないずくしの貧乏仏師だったんじゃねえの?
でもそれ以来、ずっとここらの連中の仏様なのさ。
経文も知らねえ学のない連中がさ。
泥にまみれた手ェ、合わせてきたのがこの仏様。
ふふ。
今じゃ、俺らの旦那寺は別にあるけどよ。
そこの坊主はこの仏様を目の敵にしてやがるのさ。
ははは。
兄さんいいこというじゃねえか。
その通りよ。
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