銀月短編2

□竹輪の穴の向こうには
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近所のスーパーで、山のような竹輪を仕入れたその帰り道、山崎は、偶然、吉原桃源郷の百華の頭に出くわした。
聞けば、丁度、屯所を辞去してきたところだという。
感情や考えの読みにくいクールな美貌にポーカーフェイス。
この女(ひと)から情報を盗み出すのは並大抵のことではないだろうという監察根性が働く。
「買い物か?」
そう尋ねられたので、山崎は買い込んだばかりの竹輪を見せた。
「竹輪?」
不思議そうに大粒のアーモンドのような形の良い紫の猫目が煌く。
綺麗な女だ。
言われなければ、この美女が吉原の死神太夫と恐れられる最強の番人などとは誰も思いもしないだろう。
なにせ、うちの副長でさえ、そのクナイの洗礼を受けたことがあるというのだから、その腕は押して知るべし。
自分のような地味男と比べると、記憶のフックだらけの人だ。
そのフックでトンデモナイ代物さえを引っ掛けてぶら下げる。
引っ掛かった方は為す術なし。
見事、引っ掛けられてブラブラとぶら下がっている白髪男のことを思い出して、山崎は笑った。
「忍者教習所って知ってますか?」
そう尋ねると、月詠は眉を顰めて首を振った。
「なんじゃ、それは?」
ああ、やっぱり知らないんだ。
妙に納得して、山崎はあの忍者教習所の話を月詠に話し出した。
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