銀月短編2

□恋風
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銀時たちが蒼ざめて町を駆け回っていたちょうどその頃、月詠はまだ地上にいた。
墓参りを済ませた後、ささやかな用事を済ませ、帰路に着こうとしていたところだった。
あれから数日、何とか自分を奮い立たせ、仕事には影響は出てはいなかったが、それ以外ではぼんやりしている時間が増え、それだけで、勘のいい日輪には何やら感づかれたようであった。
地上に出てきたのは、墓参りという目的もあったが、日輪の思わせぶりな視線に耐え切れなかったというのもあったのだ。
何を思い悩むことがあるというのか。
日輪ならそう言うだろう。
自分の気持ちだって、あの男と同じだ。
素直に喜べばいい。
それでも。
怖い、とそう思った。
変わるのが怖い。
変えられるのが怖い。
片恋には片恋なりのメリットがある。
苦々しくもその事を実感しながら、角を曲がろうとしたその時、通りの向こうで少女の悲鳴が聞こえた。
「止めて下さい!うっ、顔近づけないで下さい!酒くさっ!!口くさっ!!全部くさっ!」
「何だと?!この小娘!!」
その声に聞き覚えがあった月詠はすぅと蒼ざめて、声の方へ駆け出した。
思った通り、将軍の妹君であるそよ姫が酔漢に絡まれているところに行き合わせ、月詠は目を見張った。
なんだって、こんなところに一人で?
疑問が脳裏を掠めたが、身体の方が先に動いた。
もみ合う二人に月詠は音もなく近づくと男の首に手刀を落とした。
どさっ。
白目を剥いて昏倒した男に一瞥をくれると、月詠はそよを見た。
「ツッキーさん!!」
「姫様、お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。有難うございました。助かりました」
深々と頭を下げられて月詠は慌てた。
「たいしたことはしておりません。それより、ここを離れましょう?人目が…」
揉み合っているところから既に人目を集めていたのだろうが、そこに月詠が加わり、大の男を一撃で昏倒させたことでちょっとした人垣ができていた。
不逞浪士の類が混ざっていないとも限らない。
月詠とそよはそそくさとその場を後にした。
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