2013夏企画

□side月詠___byゆえ様
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日が中天を越えて西へと傾きはじめた頃、月詠は目覚めた。
自分が布団の中で寝ていることと、目覚めた瞬間にふと香った砂糖菓子のような甘い匂いを不思議に思って、それを日輪に話してみれば、そりゃ銀さんのせいだろうと事も無げに言われてしまった。
言葉を失って呆然としている月詠に、日輪はいつもと変わらぬ笑顔をむける。

「あら、駄目だったかしら。寝所へ殿方を遣るのはどうかとも思ったんだけど、ほら銀さんなら気心も知れたもんじゃない? 真昼間から襲うような真似をするとも思えなかったし、そんな意気地がある男でもないだろうし、私もいるし」

そういう問題ではない。寝姿など見せられたものではない。
それは別に銀時に限ったことではなく、人様にそんなところを見せたら失礼だろうだろうと日輪に食って掛かってみたが、「ごめんよ」とあっけらかんと言われただけ。
その悪びれなさに月詠の気勢も削がれてしまった。


気まずい、恥ずかしい。月詠はいつもの黒い着物に着替えて、ひのやの前を落ち着きなくうろうろしていた。
日輪が銀時に仕事を依頼したそうだが、それもじきに終わり、報酬を取りにひのやへやって来るだろう。
仕事を理由にして、銀時と顔を合わせずに逃げ出してしまうこともできる。だが、それは失礼だと思う。
いや、気まずさと恥ずかしさよりも、失礼云々よりも、本当のところはひと目でいいから銀時の顔が見たいというだけなのだ。

元気にしているところを見れば安心する。
いつも通り、軽口を叩き合うことができたらそれでいい。
それで、月詠は満足だ。
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