銀月短編2

□月影と星影
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「おい。暑苦しいから、やめろ」
「オメー、ほんと男心ってモンを分かってねェな」
「何がじゃ?」
「いいけどよ。別に」
ここに居てる月は実体を持って暖かい。
「しかし、実在を信じていなかったとも言い切れぬな」
「どっちだよ?」
「いや、かぐや姫や牽牛織姫の例があろう。そこに住まう者の話があるくらいじゃ。信じていたのかもしれぬ」
「その話、どっちも嫌い」
「なんでじゃ?」
「オメー、ほんと男心ってモンを分かってねェし」
「生憎、そのような高等な技術は持ち合わせておりんせん」
「このかぐや姫さんをお月さんにわざわざ帰してやる気はねーよ」
「かぐや姫などという美女に例えてくれるのは有難いが、言いすぎではないか?」
「うっせーぞ。縛り付けて帰してやんねェよ。それが罪というなら、罰くらい俺が引き受ける」
「たわけ。ぬしは知らんのか?かぐや姫は元々、月の世界の罪人ぞ。この星に流罪となっておったんじゃ」
「……何の罪?」
「知るか」
「想像してみろよ」
「そうじゃの。求婚者に対するかぐや姫の仕打ちを考えてみるに、案外、月の世界で誰ぞを愛して罪に落ち、この星で誰も愛さなかったから、罪を許されて月に帰ったとか、かの」
「えらく冷たい世界じゃねェか。月の世界は」
「その伝で行くと、もし、わっちが月の世界の住人ならば、もう罪は許されぬよ。帰れぬ。帰らぬ。ぬしの所為じゃ」
「オメー、すげえ殺し文句言うね」
「参ったか」
「参りました」
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