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□標的8
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『雲雀さん、おにぎりの具で何が1番好き?』
「唐突に何」
『今日私のクラス調理実習でおにぎり作るからあげようかなって』
なんでも、調理実習で作った物をクラスの男子にあげるのが伝統らしい。
それは、バレンタインをも凌ぐ大イベントだとか。
「ああ、そういえばそんなこともあったね」
『雲雀さんも貰ったりしたの?』
「渡されることはあったけど、知らない人間が作ったものなんか食べたくないから草壁に処分してもらってたよ」
『酷い・・・でも雲雀さんらしいか・・・』
そのときの光景が目に浮かぶ。
草壁さんも嫌な役回りだなと思いながら、苦笑いを浮かべた。
『なら私もクラスの男子に渡そうかな』
「・・・どうして」
『せっかく渡しても食べてもらえないなら渡さない方がいいでしょ?』
「与魅は知らない人間じゃないでしょ。僕の彼女なんだから」
その言葉に少しだけ頬に熱が集まる。
あまり実感はないが、雲雀の彼女になったんだと再確認させられた。
『あ〜、うん。そうだよね』
「具は何でも良いよ。与魅が作ったなら不味くはないだろうし」
『その言い方、褒められてる気がしない』
ムッと眉間に皺を寄せると、悪戯な笑みを雲雀は浮かべる。
「どっちだろうね。まあ、期待して待ってるよ」
『ロシアンおにぎりにしてやろうか・・・』
「その時は容赦なく咬み殺すよ」
『容赦あったことないじゃん』
呆れた顔をしながら手をヒラヒラと振って応接室から出る。
自分のクラスに着くと、なんだかソワソワとしている。
『本当にバレンタインみたいだ』
「与魅ちゃんおはよう!」
『京子ちゃん、おはようございます』
声をかけてきたのは我が校のアイドル、笹川京子。
直接みるととんでもなく可愛い。
さすがアイドルと納得できる。
『今日も変わりなく可愛らしいですね』
「そんなことないよ!恥ずかしいなぁ」
それに加え、性格もいい。
完璧じゃないか。
パーフェクトガールだよこの子。
ツナも惚れるはずだと心の中で考える。
「おはよ。2人揃って何の話?」
「おはよう花!」
『おはようございます。京子ちゃんは今日も可愛いですねって話していたんです』
次に声をかけてきたのは黒川花。
ウェーブのかかった黒髪に大人っぽい顔立ち。
類は友を呼ぶのか、容姿のいい者同士が集まる。
『花ちゃんも相変わらずお綺麗で』
「与魅って見た目によらずオヤジくさいとこあるわよね」
「あ!それたまに私も思う!」
『そ、そんなことありません!酷いです!』
なんでか分からないという顔をして2人を見ると、花はため息を付く
「まあいいわ、ところで今日の実習で作ったやつ誰にあげるのよ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら問う花。
「ん〜、私は特に決まってないかな。与魅ちゃんは?」
『私は・・・雲雀さんに・・・』
「えぇ!?雲雀ってあの風紀委員長の雲雀!?」
『はい』
冷めたはずの頬を再び赤くしながら告げると、花はこれでもかってくらいに目を丸くする。
「あんたもしかして」
『最近お付き合いを始めました』
「「「なんだってえぇぇぇぇぇ!?」」」
クラスの殆どが一斉に声を上げたためビクッとする。
いったい何事かと周りを見れば
皆が見ているのは自分であった。
『あの・・・なんでしょうか?』
「夜咲さん本当に雲雀さんと付き合ってるの!?」
「嘘だろ・・・勝ち目ねぇよ」
「与魅ちゃんがあんな恐ろしい人の彼女なんて・・・山本君がお似合いだなと思ってたのに」
「でも確かに美男美女ではある・・・あるけども!」
「与魅ちゃんが雲雀さんにあんなことやこんなこと・・・」
『ちょっと待って下さい!一気に話されても処理しきれません!そして最後のは何か違います!』
冷や汗をダラダラ流しながらストップをかけるが、中々その場は収まらない。
「あんたは気付いてなかったかもしれないけど、男女共に人気あったのよ?女子のファンクラブ、男子の親衛隊もあるんだから」
『はぇ!?何で私なんかにそんなものが!?』
見た目は自分で言うのもなんだが悪くないと自覚している。
しかし、こっちに来てからポロッと素が出ることは度々あった。
というか、風紀の仕事で制裁シーンを見られるなんてしょっちゅうだ。
にも関わらず何で?
「女子は、日本人形みたいな綺麗な顔立ちなのに強くて優しいから素敵って言ってたわね。男子はよく知らないけど、差し詰め可愛くて優しいからってトコじゃないかしら?」
『えぇ!?それなら京子ちゃんで十分お釣りきますよ!』
「タイプが違うのよ。京子はどちらかと言えば洋風なイメージ。与魅は純和風なイメージでしょ」
「与魅ちゃん和服似合いそうだもんね!」
淡々と説明する花と、呑気に同意を示す京子。
まさかこんなことになるなんて。
与魅は小さくため息を付いた。