世界の果て

□五老峰日記2
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内は海岳の如し。

その身は山斗を映し。

函蓋、琴瑟にて鉄石の如し。



「―――という人物だと思うの、童虎は。」

「何だかよぅ分からんのんじゃが…」

「だってわざと解りにくい言葉を選んだもの。
ま、要するに童虎は凄いってこと。」

「なんだか腑に落ちんのう…
お、そうじゃ。」



何か良い事を思い付いたらしい童虎はすくりと立ち上がり、私と肩を並べるようにして滝を望んだ。

そうしてゆっくりと詠いだす。



「花発(ひら)けば
風雨多し
人生別離足る

どういう意味か解るかの?」

「…さっぱり。
私の専門外だ。
最後の人生さよならばっかり、っていう以外は読み取れないね。」

「この詩(うた)の肝はそこじゃからな。
さよならだけが人生だ。
と、要約するとそういう意味じゃ。
真に悲しい詩じゃ。」

「そっか、そういう詩なのか。
ふぅん…」

「何か思うところがあるか?」

「いやね、別れが悲しいってのは出会えて良かったからでしょう?
嫌な奴なら別れは嬉しいはずだし。

出会わなければ別れもなかった。
花は嵐に散らされるかもしれないけれど、嵐は種を遠くに運ぶかもしれない。
私はこの詩、悲しいだけだとは思わなかったよ。」

「…真美は面白い解釈をする。
この詩を悲しくないと言った者は初めてじゃわい。」

「私、国語とか文学系の勉強は苦手なんだよ。
筆者の心情とか伝えたいことっていっつも分からなかったし。」

「詩とは自由な解釈で良い。
心は自由であるべきじゃ。
儂も真美の解釈は嫌いではない。」

「そうかな?
テストなんかではバツなんだけれども。

私、童虎と会えて良かったよ。」

「フォッフォッ。
儂も真美と会えて良かったわい。
さよならの数だけ出会いもある。
二百年以上生きておるが、人生幾つになっても勉強じゃなあ。」





いつか、私も別れが悲しいと思う時がくるのだろうか?

童虎や紫龍、この世界で出会った人と別れる時は――…







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