書物

□始
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「拙者も少し疲れた…またいつ旅に出るかわからぬでござるよ」

ここからが始まり・・・

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     始

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しばらく剣心が神谷道場にいるということで、薫は父の着物を箪笥からいくつか見繕う
人斬り抜刀斎の噂が広まり、なかなか人が寄り付かず、久々の客人に薫は浮かれていた

まさか本物の人斬り抜刀斉がここにくるとは…
ホント何が起こるかわからない…そう思いながら剣心が着れそうなものを選んでいった

「この着物とかなら剣心も着れるわね」

着物を抱え、立ち上がると、ふと進む足が止まった。
そういえば…二人って…

大丈夫かしら…?

剣心も男の人だし…











天井を見上げ、少し考えたが「まっいいか」と踵を返した
道場で待っていた剣心の所へ戻ると先程と変わらない態勢で座っていた
少し遠慮気味な剣心とは裏腹に薫はとても楽しそうだった

「こっちにきて!」
無邪気な子供が父親を引っ張るよう剣心の着物の袖を引っ張り部屋へと案内した

「この部屋を使って!父のだけど着物も幾つか用意したから使って!」

「か…薫殿。拙者に部屋など…どこか雨宿りが出来る程度で構わぬでござるよ」

「いいのよ!部屋は、いっぱいあるんだから気にしないで!」

遠慮気味に立ち竦んでいる剣心の背中を押し、半ば無理矢理部屋に入れ座らせた
まさか部屋が与えられるとは思っていなかったのかキョロキョロと辺りを見渡す

自分の家に人がいる…

不思議な感じ…

今まで一人だったからなぁ…

剣心の前に座ると、ふと目が合った
一瞬、見つめ合うと、何となく気まずくなって薫は立ち上がった

「お茶淹れてくるわね///」

「拙者も手伝うでござるよ」

「何言ってんの!久々のお客さんなんだから!ここで座ってて!」

「…でも…お。おろぉ〜」

立ち上がろうとする剣心の肩を半ば無理矢理座らせた

薫が障子を開けたまま部屋を出ていくと、鳥の囀りが聞こえてきた
外を眺めると庭には木が生い茂り、小鳥が小休憩していた

東京は人が多く、賑やかな印象ばかりあったが、こんなにもいいところがあるのかと、しみじみと感じていた



「…」


「…いいところだ…」





ガッシャーン!!
「キャー!!」




「!!」




静寂を突き破る、大きな音と悲鳴
剣心はわからぬ屋敷の中、声がする方へ、駆けて行った

声がする部屋の戸を開けると、そこは炊事場で薫がお湯をひっくり返し座り込んでいた

「大丈夫でござるか?」

お湯がかかったのではと、薫を案じて手を取って確認すると、ほとんどかかっていなかったので少しホッとした

「熱いところはあるでござるか?」

「うん。大丈夫よ。お湯はかからなかったわ…予想以上に重くて薬缶を落としてしまったの。」

薫が両手を胸において、驚きを隠せない表情をしていた
思わず、その両手を包み込むように、手を重ねた

「大丈夫でござるよ」

少し涙ぐんだ顔を見ていたら、ふと、かなり接近していたことに気がついた
お互い見つめあうと、涙ぐんだ顔から頬を赤らめた顔になった

「…す、すまないでござる」

「ぃ…ぁ…私の方こそ…」

「拙者が湯を沸かすでござるよ。薫殿は今で休んでいるでござるよ」

「ぁ…うん!!そうさせてもらうね!!」

そういうと真っ赤な顔した薫は飛び出すように炊事場を出て行った
ドキドキが収まらず、先程のまでの手のぬくもりを確かめるように両手を重ねた



剣心はというと、初めて訪れた家なのに慣れた手つきで湯を沸かし始めた
戸棚から湯呑を探し当てると、盆に乗せ薫の待つ居間へ向かった

「薫殿、待たせたでござる」

「ごめんね。お客さんなのに…」

「気にしないでいいでござるよ。ここにおいてもらえる分、拙者も働くでござるよ」

二人でお茶を啜っていると、ゆっくりとした時間が流れた
薫はと言うと、先程包まれた剣心の両手を見て、また頬を染めた

茶を飲みながら、いろいろと話し、ようやく緊張が解けてきた頃、日が傾き始めた

「もう、こんな時間!楽しいから早く時間が過ぎちゃった!」

「本当でござるな」

「そろそろ夕餉にするわね!」

「拙者も手伝うでござるよ」

「剣心料理上手よね!一緒に作りましょう!」






夕餉が出来上がり、膳にならべると誰が作ったのか一目瞭然であった
いただきますと両手を合わせ、初めての夕餉を一緒にした

「おいしい!剣心ったら、どこでならったの!?私よりおいしいじゃない!」

「いやいや…薫殿の料理もあまり見たことがない斬新な…」

「ちょっと!!」

「ははっ。冗談でござるよ」

久しぶりの一人じゃない夕餉
剣心も薫もいつまでも絶えない会話を楽しみながら、心もお腹も満腹になった






「こんなに楽しい夕餉は久しぶりだったわ!」

「拙者もでござるよ」

「ねぇ剣心。しばらくゆっくりしていって…」

十も離れた女子に、剣心はドキッと思わずしてしまった





しかし…




数日のうちに出て行こう…





拙者には、このような幸せな日々を送る資格などない…





「お布団敷いてくるわね!」
薫は剣心の答えを聞く前に、そそくさと剣心の部屋へと向かった

楽しかったのは自分だけだったのか…そう思わずに入れなかった
もしかしたら、今日だけなのかぁ…そう思いながら、布団を丁寧に敷いた



一方、剣心は…

思わず返事が出来なかった剣心もまた後ろめたい気持ちであった
先程の楽しい時間から、急に現実に戻ったような…
自分が思い描いていた未来に生きる薫は眩しかった

早く出なけれな…










けど…もっと一緒にいたい






チュン…

チュチュン…


「んぅ〜、もう朝ね。ん?なんだかいい香り…」

少し肌寒い中、上着を羽織り、いい香りがする方に釣られていった
炊事場で剣心が朝餉の準備をしていた



きっと、剣心は今日旅立ってしまう



人と過ごすことのぬくもりを感じることが出来た昨日
夢のようで声がかけれなかった…




しかし、きっと…




「薫殿、おはようでござる」




「おはよう。剣心。」




せめて…




最後の朝餉は楽しく食べなきゃ





「おいしそう!!私も手伝うわ」




「もう出来るでござるよ。朝は寒い。着替えてくるでござるよ」

「うぅん!いいの!手伝う!」


少しでも一緒にいたい

あと少し

お願い




もう少し一緒にいさせて…





「薫殿…」




「…着替えてくるでござる。では…」




「夕餉は手伝ってくれるでござるか?」




「え?」




「夕餉は一緒に作るでござるよ」




「うん///」



薫は満面の笑みを浮かべて、部屋へ走った










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     始
    後書き

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ここまで読んでくださってありがとうございます。
生活の始まりを、伝えようとしましたが…やはり文章は難しい…
薫のドキドキ感が書ければと思いましたが…本当に難しい…

こんな作品でしたが、読んで頂いて本当にありがとうございました★

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