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□小さくて大きな幸せ
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そして美子さんが持たせてくれたというお金で会計を済ませると、
「いーよ、おれが持つ」
「あ…」
渋谷はさっと、荷物を自分が持ってしまう。
「お前は次の店の方持ってくれればいーよ」
と言う渋谷。
次の店で買うものの方が、明らかに小さくて軽いものだ。
「でも…」
「だいじょーぶだって。筋トレにもなるし」
と笑いながら言ってくる渋谷。
満足げな顔をしている。

「で、さぁ…」
店を出ながら、今度はなんだか神妙な顔をしてくる渋谷。
「何だよ渋谷?」
これは…何か僕にお願いか何かがあるな。
「お願しますっ!レポート!教授の出す課題ぜんっぜん意味わっかんねー!」
…思った通りだった。
「クリスマスやんじゃん?でもさ、今それどころじゃなく追い詰められててっ!このままじゃあクリスマス迎えられなくなりそうな気がしてっ!ちょっと前には自分で考えるっつったけど…」
「駄目だったんだ…」
難しい課題を出されたーと少し前に渋谷が言っていた大学のレポート。
もし無理そうだったなら手伝おうか?と言ったところ、少し自分で考えるから、と言っていたやつだ。
結局考えてもどう見ても駄目だったらしい。
「あ、手伝いっても丸々全部って訳じゃなくて、分からないとこを教えて欲しいっていうか…」
「いいよ」
くすりとしながら言えば、
「やったー!マジありがとう村田ぁー!」
と今にも抱きつきそうな勢いで喜ぶ渋谷。
渋谷は結構、男のプライド的なとこが強い奴で、何かに負けるとそれに張り合おうとする傾向も強い奴だ。
だから、なまじ同じぐらいの見た目年齢のフォンビーレフェルト卿相手には、色々なことをあいつには負けたくない!的に頑張って張り合っていたりもする。
しかし僕に頼るところは渋谷は、プライドも何も関係ないらしい。
お互い得意な分野で、渋谷が無理なとこは僕が、僕が無理なところは渋谷がで助け合っていて、それを苦痛に感じないらしい。
そんなところも、とても嬉しく思ってたりする…。

きみが僕に向けてくれている沢山のこと。
小さなことひとつひとつが、とても僕のことを想ってくれてるっていうのが分かるから…。
そして渋谷は、以前よりももっともっと僕のことを…。

「あのさぁ村田…」
「んー?」
歩きながら、渋谷がぽつりと漏らす。

「おれ、さ。お前に頼ってばっかだけど、その…」
何を言いなさる。
きみはちゃんと分かっているじゃないか。
適材適所ってやつを。
「こ、恋人同士っぽく…見えるのかな…、おれ達」
「…しぶっ」
思わずぶっと吹き出してしまう。
何を思っていたかと思えば…。
「あははっ」
「笑うなって!」
むっつりと拗ねてしまう渋谷。

「あははっ、ごめんごめんー。でも、見えちゃあまずいだろーここじゃあ」
僕達は男同士で、ここは日本なのだから。
ここでは男同士の恋人同士というものは一般的ではない。
眞魔国とかならともかく。
「そうだけどさ…」
呟く渋谷。
「それはそうだけど、その…おれ達あれだから、もっと…」
「…うん」
目を細める。
渋谷は、友人関係なだけだった時よりももっともっとと、更にもっと僕を求めてきてくれている。
ただひとりだけに向ける気持ちを僕に向けてくれているのだ。
まだまだまだと、際限がないような渋谷の愛情に、僕は本当、もうどうしようかという気持ちになる。
…本当、渋谷はずるい。
渋谷の気持ちが嬉しい…とても嬉しい。
僕だって、きみが好きなのだから…好きで好きで堪らないのだから。
きみの言葉によって僕は嬉しくなるばかりなのだから…。

好きだ…。
そんなきみが、凄く凄く大好きだ…。
「十分見えてるって。眞魔国の僕等の関係を知ってる人達はそう言うじゃあないか?まあここでは、いちゃいちゃは家でだねー」
くすくすと微笑むと照れくさそうに、
「…お前なー…。ほんと、村田にはいっつも負けっぱなしですよおれは」
と半目で言ってくる渋谷。

渋谷も照れているけれど、僕の方だって、顔が熱くて仕方がない。
幸せで仕方がないんだ。
負けっぱなしというのなら僕の方こそそうだ。
…僕だって、僕の方こそ心臓がおかしくなりそうなんだ。
この想いは、薄れることなんてなく、いつもいつもいつも、僕はきみに惚れ直しているのだから…。

友達だっただけの時には得られなかったもの…。
今確かにそれを感じている。

友達なだけな時でも凄く幸せで…。
だけれど、もう…知らなかった時になんて戻れはしない。
何故ならば僕はもう、今という時を『知って』しまったのだから…。
これ程のきみからの特別感を、たったひとりに向けられる気持ちを、なかったことになんて出来はない。

今僕は、確かに感じている。
これ以上ないってぐらいの幸せを…。
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