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□恋花火
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「おまたせ、渚くん。どれくらい待った?」

「僕も今来たところだよ。」

そう言いながらも、ついついカルマくんを見つめてしまう。

…カルマくん、浴衣姿もカッコいいな。

白地に黒の模様と紺色の帯が、とってもよく似合ってる。

「渚くん、浴衣姿も可愛いね。」

「あ、ありがと…。」

嬉しいのと、恥ずかしいのが混ざって、なんとも言えない気持ちになる。

「行こっか。」

そう言って、手を握られる。

…強引だけど、無理矢理じゃなくて、心臓のどきどきが止まらない。

この音をカルマくんに聞かれたら、どうしよう。

止めなきゃって思うのに、それは逆効果みたいで。

「ねえ、花火って何時から?」

「…多分、もうすぐ始まると思うよ。」

「そっか。楽しみだね!」

僕が緊張し過ぎてるせいか、当たり前の会話さえぎこちなくなる。

それなのに、カルマくんはいつも通りに接してくれていて。

もう、どうしよう。

僕は、ただでさえ迷惑をかけてばかりなのに…。

と、そのとき。

「渚くん、もう花火始まるって。」

「えっ? ……わあっ!」

僕が空を見上げたら、そこではすでに花火が打ち上げられていた。

「きれいだね。」

「うん…。」

思わず二人、無言で夜空を見上げる。

星や月が、今夜の主役の座を譲っているかのように、一切光がない夜空。

…闇のなかに吸い込まれてしまいそうになる。

そんな闇を彩る、大輪の花。

明るく、華やかに、夜空に咲き誇る。

…と、すぐに花びらが散っていくように、儚く消え去っていく。

きれいだけど、見ていると何故か切なくて。

――夏を締めくくる最後の花火は、大きく、華やかに、でも儚く消え去っていった。




「花火、きれいだったね。」

「うん。」

まだ身体にだって、目の奥にだって、花火の光が残ってる。

「また、来年も見に来ようね。」

「そう、だね…。」

来年があるかどうか分からないけど。

あったとしても、僕らの関係があるかどうか分からないけど。

それでも彼は、『来年』の約束をしてくれて。

それがとっても嬉しくて。

だから、

「来年も、一緒に見たいな…。」

「じゃあ、まずはあのタコ、殺らないとな。」

「そうだね!」

思わず二人で笑いあう。

「ねえ、カルマくん…」

約束だよ?

――来年も、一緒に見ようね!
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