present

□甘さの度合い
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「ん…っ、んぅ…」
唇が合わさり、鼻にかかった甘ったるい声が漏れ聴こえる。
抱き合う体がひとつに重なる。
服越しではあれど互いの体温を近くに感じて、好きな相手なのだから嬉しくない訳はない。

つまりは、いちゃついていたんだ。
そんな最中おれは目が合ってしまった、偶然にも。

少し離れた廊下の角に、真っ赤な燃えるような長い髪を…。
その人物は、おれ達の方を見たけれど、興味ないようにふいっと視線を外しすたすたと向こうへと行ってしまった。

「………」
一気に現実へと引き戻されてしまう。
村田は、普段は自分よりも敏いくせに、キスで溶けてしまっていて気づかない。
「渋谷…?」
「う゛…」
間近で見つめる潤んだ瞳。
可愛い…と思ってしまう。
しかし浸っていていい状況ではないので我慢する。

こんなところでキスを、しかも深めのキスなどしかけてしまったのは自分で。
村田だって最初は場所のことを言っていたのに、こんなに村田がぽやぽやになるまでにしてしまったのは自分で。
つまりは全て自分が悪いのだから。
「……あー…、村田、ごめん…」
と素直に謝るのことにした。
「?」
「見ら…れた。『かも』じゃなくて確実に」
内心はめちゃくちゃ焦りつつも、上手く感情すら出てこない程驚いて故淡々としたしゃべりになってしまう。

「…っ!!?な…っ!!」
途端現実に戻ったかのように瞳に力が戻ってしまったのはもったいないと思ってしまう気持ちは見ない振りして。
おれは頷く。
「やっぱり!こんなところでするから…」
驚きと羞恥と気まずさを顔に滲ませる村田。
「う゛…」
村田は、部屋でもないんだしいつどこで誰が見てるか分からないからやめようと言っていた。
しかし、ここは人が滅多に通らないし大丈夫だと押し通したおれが全て悪いんだ。
慌て周りを見回す村田だが、もう彼女は去った後だし、周りに他にも人影は見当たらない。
「…今は、いないみたいだね」
「あ、ああ、すぐ行っちゃったし」
「僕らのそんなシーンを偶然いきなり見てしまって。それでも静かにとっとと行っちゃうって…。この城内で、そんなことが出来そうな人って心当たりは少ないんだけど。逃げたとかじゃあないんだよね?大きな走り去る音とかは特にしなかったと思うし」
「ああ」
頷く。
まがりなりにもおれと村田は、この眞魔国の魔王と大賢者の地位にあったりするもんだから、もし、おれ達のこんなシーンを見られようものなら凄いことになるだろう。
騒がられるか固まられるか。
しかしそのどれでもなかったのだ今回は。

「…アニシナさん、なんだ」
おれは人物の名前を言うと、それだけで頭のいい村田は納得してくれたみたいだ。
「ああ〜、彼女か。じゃあ一応安心かな。変に騒ぎ立てとかはしないと思うし」
ほっと息をつく村田。
「なぁ。あ!でも後で何かもにたあに選ばれたりしなければいいけど…」
「それは…」
村田も苦いような顔をする。

「あーあー。ここ廊下じゃん!何やってんだおれ!」
ようやくおれは自分がとんでもない失敗をしてしまったと実感してくる。
「ほんとだよ渋谷。僕は言ったじゃんか。きみだって見せびらかす露出趣味がある訳じゃあないだろ?」
「まさか!」
間髪入れず否定する。
「こういうところなんて、他の人に見せるようなものじゃあないからね。なのにきみは…盛り上がると、結構周り見えなくなっちゃったりするからなぁ」
「う゛…」
返す言葉もない。
こういうのは今回だけのことではないのだ。
「まあ、僕も結局は流されちゃったからいけないんだけど」
今先程のおれ達の行動について村田の中でぶり返してきたらしい。
口元を手で押さえ頬の赤色が増してしまう村田。
ぶっちゃけおれも冷静になってみればハズいのだが。
村田は止めたのにしでかしてしまった側としてはそのことについて何も言えない。
しかし、
「ま、まあ!でもさ。おれ達よりも、アニシナさん達なんて城の沢山の人が知ってんだし!…アニシナさん、知らないなんて分けないだろ、多分」
だからおれらの羞恥具合なんてまだマシな筈…と。
「あれは…確かに皆大っぴらに噂してたりしてる様子はないけど。結構な人数そう思ってるみたいだしねぇ」
眞魔国の見知ったメンバーが、気づいてはいても何故か口に出しては言わない事柄。
グウェンとアニシナさんの関係のこと…。
周知の事実というのはこういうことのことを言うんだ。
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