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□やきもちについて
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「アニシナさんってすげぇよなぁー」
とある日、おれはぽつりと言葉を漏らした。

おれの呟きも聴こえていたらしき、ソファの隣に座っていた村田は、
「何、藪から棒に?」
と疑問符を出し尋ねてきた。
そんな顔も可愛いとか内心でこっそり思いながらもおれは答える。
「ほら、さぁ…、グウェンとアニシナさんって所謂カレカノじゃん…?」
「…まぁ…」
と、村田はどう答えたらいいのやらというような感じの返事をする。

おれの中では、赤い悪魔こと現代で見ても摩訶不思議な発明品を次々と作り出す彼女は、三兄弟の長兄であるグウェンの彼女として認定されている。
他の奴らだって、はっきりとは明言していないけれど、分かる奴は分かっている。
グウェンとアニシナさんには長年の幼馴染ならではーの、他の奴らには割って入れないような雰囲気がある。
だがしかし、そうだからとカレカノ認定した訳ではない。
他の誰かが割って入れないような長年の幼馴染の雰囲気というのならば、ヨザックとコンラッドもそうだ。
だけれどグウェンとアニシナさんは…コンラッド達とは違うものを感じる…。
それは、ふとした時に滲み出る仕草や雰囲気な甘さ。
ああ、このふたりは、好き合ってるんだなぁ…そういう意味でと思ったんだ。

前はもっと大雑把な認識だったかもだけれど、おれが村田と付き合うようになってからはそれが特に何となく分かるようになった…。

「カレカノなのにさぁ…やきもちとか…妬かないのかなと思ってさぁ…」
おれの言葉に、村田はすぐに思い至ったようだ。
「ああ、もしかしてさっきの…」
「そうそれ!」
おれが思い出したのは先ほどの様子だ。

おれと村田がこの部屋に来る前、グウェンが綺麗なご令嬢方に囲まれていた。
パーティーだったから、皆いつもよりも近づきやすいと思ったのだろうか。

グウェンの、眞魔国内での評価は高い。
グウェンに憧れの気持ちを抱いている女の子達も沢山いる。
今回のように実際囲まれているようなこともあったりもする。
だけれど…アニシナさんは平然としていた…。
同じパーティー会場内にいて、グウェンの状態が目に入っても、特に割って入ったり目に見えて怒ったり等の様子はまったくなかった。
いやあの人は考え方も摩訶不思議というか、到底及びもつかないような人だから内心はどうだかは分からないけど…。
しかし少なくとも、表面的には何と思っていないように見えたのだ。

おれはそんな自分の考えを村田に伝える。
「なるほど」
と頷く村田。
「だってさぁー、それ、おれだったら絶対無理…」
「え…」
そこまで普通に聞いていた村田が、少し驚いたような顔をする。
「だってそうだろ?自分の好きなやつがさ、そいつにあからさまに好意持ってる奴らに囲まれるなんて、おれだったら絶対無理!触らせたくない!って思わないか普通?」
とおれなりの意見を言ったら、
「…そっか」
と、ほんのりと頬が赤くなる村田。
そこでおれははっとした。
村田はおれのお付き合いしている相手で、今のついおれの考えをそのまま言っちゃったけど、その言っちゃった相手も村田自身であって…。
「うああ!ごめん、ちが…わないけどっ。うん!だって……なぁ?おれ、お前を誰かに、しかもお前のことを好きな奴にべたべた触られたり近づかれ過ぎたりしたくないっていうか…」
などと開き直って言ってしまう。
何でも困ったことは村田!とつい村田に相談してしまうから、こういう内心のぶっちゃけもつい言ってしまうことも多いからこういう事態になってしまうのだ…。

「村田…」
「…う、うん…」
お互い妙に意識してドギマギしてしまう。
だってこの反応、村田は全然嫌がったりしてる風には見えないから。

「ま、まぁきみのことはともかくさ」
こほんっと咳払いをする村田。
ハズイのはお互い様だ。
「…分かってるんじゃあないかな、彼女も」
「わか…てる…?」
何を?
わかってる?

「これは僕が思うにだけれど。やきもち妬く心配なんてないから…じゃあないかな?」
「……へ?」
「彼が色んなご令嬢方にモテるのなんていつものこと。そんなことでいちいち苛立ってたらきりがないし、それにモテてるだけで彼女達は彼に対して実害がある訳でもない。見ての通り、フォンヴォルテール卿は彼女らに見向きもしていないじゃないか?」
こちらも、そう言えばやきもち何て妬いたこと…見たことあっただろうかと思う村田が自分なりの解説を続ける。
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