present

□小さくて大きな幸せ
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このペースなら待合わせには10分前には到着するだろう。
それなのに僕が急いでいる理由は…。

「村田ぁー!」
待合わせ場所が見えてきたと思ったら渋谷の声。
僕に向かって手を振っている。

「渋谷…」
やっぱりもう来てたんだ。
たっと僕は渋谷のもとへと駆け寄る。

「ごめん。お待たせっ」
「だいじょーぶ、そんな待ってないって。それにまだ待合わせの10分前じゃん?」
そう言い渋谷は微笑んだ。
凄く嬉しそうな優しい顔で…。
「そうだけど…さ」
そんな渋谷の顔にドギマギしつつも僕は思う。
ほんと、恒例になっちゃってるよなーこの待ち合わせ。
渋谷が先に来て待っていて、僕が後に来て遅れてごめんと言う。
以前、友人関係なだけだった時は僕の方が待合わせに早く来ていることが多かった。
その時にも渋谷は、自分が先に来て待ってたいみたいなことを言ってごねたこともあったりもしたけれど。
渋谷は少し早く来てー等もしたが、渋谷が早い時もあったが結局は僕の方が早い時のが多かった。
しかし…。
所謂お付き合いをする仲になってからは。
これは!男的に譲れないとこで!とか何とか言って、何の対抗意識なのか、いや…違うみたいだ。
おれの方が早く来て村田のことを待ってたかったから…と、渋谷は何が何でも自分が待合わせに早く来るようになったんだ。
僕が少し早く来れば渋谷の方は次の時にはもっと早く来る。
僕的には渋谷を待たせ過ぎるのもあれなのだけれど。
渋谷的には自分が待っていたいのだそうだ。
僕はまだ来ていなく誰もいないのに。
待っていて、そして自分よりも遅れてくる僕に、ごめん、待った?いーやそんな待ってないから。的なのをやりたいらしい。
いや確かにそれ、ある意味恋人同士の定番的なことかもしれないけどさぁ。
渋谷はまったく諦めはしなかった。
このままではいつまでも早く来合い合戦をすることになってしまい、果ては待合わせのどのぐらい前に来ることになってしまうんだと危惧した為僕は止めた。
待合わせの10分前よりはもうこれ以上早くは行かないようにした。
きっかり10分前にいつも来るようにした。
そうしたら渋谷は、待合わせよりも15分は早く来て、それが固定するようになった。
渋谷の熱意には負けた…。
それに何よりも、初めて僕よりも早く来た時の渋谷の顔が…凄く…嬉しそうだったから…。

…そんなに、嬉しいん…だ。
僕を待っているのが、そして遅れて来た僕に待った?いや待ってないよ的なのをやるのが。

とくん…と、胸の中があたたかくなる。
そして何だかくすぐったく恥ずかしくなる。
渋谷って、本当ベタなのが好きというか何というか…。
でもそんなベタベタなベタなことだとしても、きみが僕を想ってくれて故のことだと思ったら…。

とくんとくんと、幸せの鼓動が刻む。

「今日寒いんだしさ」
と言い自分のマフラーを解き僕に巻いてくる渋谷。
「え…」
「お前、今日マフラーしてないじゃん」
キャップは被ってるけどさーと、僕の頭に被っていた毛糸のキャップを触りながら言う。
「それじゃあきみが寒いだろー?」
「おれは鍛えてるし寒さにも強いしへーき。お前寒いとめっちゃくちゃこもってるよーな奴じゃん」
にっかりと笑いながら言う渋谷。
いや確かに僕よりも渋谷のが全然寒さには強いけどね。
渋谷はいくら寒い時でも毎朝朝トレの走り込みをしている奴だ。
僕は体育会系じゃあないし、それはそうだと思うんだけど…。

「な…?」
優しい目…。
僕のことを想ってくれているのが丸分かりな…。
僕を、大好きで仕方がないって丸分かりな…。

くすぐったい…、むずむずする。
「…うん」
頬が熱い…。
ああもう…っ。
好きだなー好きだなーと、渋谷への想いが溢れてならない。

「じゃあ行くぞー」
と渋谷が歩き出す。
「うん」
僕も渋谷の隣、一緒に歩いていく。

休日の待ち合わせ。
一応の名目はあるけれど。
これは所謂、デート的なもの…だよなぁ。

渋谷は僕の歩幅に合わせて歩いている。
これだって、友人なだけな時にはなかったものだ。
あまりにも渋谷が速すぎたり僕が置いてきぼりな感じだと合わせてくれるけど。
急いでる時など、僕が遅い時は手を掴み引っ張っていくーなんてこともあったけれど。
しかし完璧僕の歩幅に合わせて歩いてくれるだなんて、なかったことだ…。
…むずむずする。


やがて目的の店に入る僕等。
今日は美子さんに、クリスマスの飾りの買い出しを頼まれたのだ。

「ったくお袋のやつー。可愛いのって書かれてもわっかんねーって!」
メモには、飾りを、可愛いやつで。とハートマーク付きで書かれている。
「普通に定番ぽいのでいいんじゃないかなー」
などと言いながら僕は籠に放り込んでいく。
「ぐへー、頼む村田ぁー」
と少々情けないような声を出してくる渋谷にくすりとする。
「美子さんからの合格点が出るかは分からないよー?」
「大丈夫だってぇー。おれがやるよりは絶対確実!それにお袋、お前のこと気に入ってんから。クリスマスだって、健ちゃん料理何食べたいかしらーとか言ってたし」
当然のように、僕も渋谷家でのクリスマスパーティの一員の頭数に入れてくれている…。
渋谷のその強引さが好きだ。
渋谷家のあたたかさが僕は…好きだ。
「…そっか」
だから、知らずの内に笑みが零れてしまうんだ。
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