gift

□その先のセカイ
1ページ/2ページ


――何が起こっているんだ?

今の状況を一言で説明するとこれに尽きる。

…というのも、うっかりアニシナさんのもにたあになってしまい、見たことのあるようなないようなところに移動してしまったのだ。

「グウェン…いつも大変だな…」

ここにはいない優秀な補佐官を思い出す。みんなのお兄ちゃんは大変だ。

「…ん…しぶや…?」
「…え?村田?何でここに?!」
「君の力に巻き込まれちゃったみたい」

えへへ、と笑ってる村田。

いつもだったらかわいいな、とか癒されるな、とか思ったかもしれないけど、今は笑ってる場合じゃないだろ

いやいやいや、それ以前に村田にかわいいってどうなの?!

「まあ、大丈夫だよ。いつもフォンヴォルテール卿だって衰弱はしてるけど命に別状はないっぽいしさ」

「そう、だよな」

とりあえず行こうと村田に手を差しのべてたオレは、この後、まさかあんなことになるなんて思いもしなかった。

□■□■□■

――そして、本日二度目の『何が起こってるんだ』。

「あれ…もしかしなくても、おれと村田、だよな?」

それもそのはず。

だって、目の前の未来のおれたちは、明らかに、その、…こ、恋人、みたいな雰囲気で。

とっさに隠れたのはいいけど、どうしようどうしよう!
頼りの村田は真っ赤になって俯いてしまっている…そりゃそうだ。

未来の村田(と思われる人物)は信頼しきった表情で未来のおれ(と思われる人物)に甘えている。

何というか、色っぽいな…。

…って!
だから、村田は男でおれも男だっての!

確かに村田はかわいいときがあるけど…。いや、でも…。
「あ、あのさ、渋谷」
「なに、村田」
「…全部、聞こえてる」
「え!えっ…と…悪い…嫌、だよな」
「別に、嫌じゃないよ」

視線を合わせてくれることなくぽそっと言った村田はやっぱりかわいいと思ったけど、いいの?嫌じゃないの?!

「それより渋谷、早く元の時代に帰る方法探さないと!」
「だよな…何か分かるか?」
「僕は君の力に巻き込まれただけだから、何とも…」
「だよな…」
「ちょっと僕、眞王に原因聞いてくるよ
「は?眞王?…って待てよ村田!」
声をかけたときにはすでに走り去っていた村田。
「まあ、相手は眞王だし…」
こんなときでも頼るのがあいつなのが何となくもやもやするけど、仕方がない、か…。

□■□■□■

「あ、いたいた、高校生渋谷」
「えっ…!村田…?!」
驚くのも無理はない。
だって村田は村田でも、目の前にいるのはこの世界の村田だったから。
「びっくりさせちゃった?ごめんね」
「いえ、大丈夫、デス」
「いいよいいよ、無理して敬語使わなくて。本来なら同級生だもんね、僕たち」

今の…っていうか、高校生の村田より、この世界の村田の方が、あたりまえだけど大人っぽくて、でも、いたずらっぽく笑うと子供らしさが見え隠れする。

…こんなに美人になるんだ、村田。

「なに?僕の顔に何かついてる?」
「あ、えっと、いえ、ナンデモナイデスすみません…」
「あははっ!可愛いなあ、高校生渋谷。今はあんななのにねー」

この世界の方のおれを思い浮かべてるのか、今までの楽しそうな笑顔が華やかになる。

もしかしなくても、やっぱり…。

「あの、未来のおれと村田って、」
「だめだよ。」
「え?」
「これは僕の口からは言えない。聞くなら、君と同じ、高校生の僕からじゃないと」「ですよね…すみません…」
「ううん。…何があっても、僕のこと、信じてね」
「あたりまえだろ!」

これは即答できた。
だって、大事な親友を疑うなんて普通あり得ないだろ?

それをそのまま伝えると、村田は驚いた表情を浮かべてから、声を出して笑いだした。

「あははっ!うん、それでこそ渋谷だ」
「あれ?おれ、変なこと言いました?」
「ううん、嬉しくて、つい。本当に変わらないね」

…どうやらおれは、10年後もたいして変わっていないらしい。

「さて、と。…楽しかったよ、ありがとう、渋谷。それで、高校生の僕はどこ?」
「村田なら、眞王のところに…」

村田が駆けて行った方を指差す。

「そっか。じゃあ、ちょっと探してくるよ」

――そう言って未来の村田は、おれの指差した方へ歩いて行ったのだった――

□■□■□■

――side M

「まさか…」

まさか、近い将来、僕と渋谷が恋人同士だなんて。
でもそれが嫌なのではなく、相手が渋谷ならいいかなと思っているのも確かな事実。
「かわいい、とか言われても…」

本来なら男に向ける言葉じゃないのは分かってる。
でも渋谷限定ならいいかな…?

多分、今の僕は真っ赤になってて、他の人に見られたらとっても恥ずかしいことになっていると思う。

でも今は、とにかく帰る方法を見つけるのが先だと思い直す。
「…早く帰る方法見つけないと!」
「教えてあげようか?」
「え…」
一瞬、びっくりしすぎて声が出なかった。…だって、相手がまさかの
「僕…?」
「そうだよ。あ、大丈夫、安心して。ちゃんと帰れるから」
「このときのこと、覚えて?」
「もちろん。いきなり将来の自分見つけちゃうからびっくりしたよね」
やはり未来でも『忘れられない』呪いは健在のようだ。
「さっき、高校生渋谷に会ってきたよ。やっぱりいくつになっても渋谷は渋谷だ」
くすり、と笑う。
「帰る方法、知りたい?」
「当たり前」
「だよね。方法は簡単だよ、いつものスタツアと同じ」
「え…?どうして…?」
「だって渋谷は剣と魔法の国の魔王さまだよ?理屈なんて通らないって」
僕の家のお風呂場、貸してあげるよなんて笑ってる未来の僕。…何て言うか、けっこういい加減なんだな、僕って。気を付けよう。
「じゃあ、渋谷のところ行こうか!」

□■□■□■

「はい、というわけで僕の家でレッツスタツア!」
「は?」
思わず声が出る。今スタツアって言った?「そうだよ。大丈夫、帰れるよ」
そういっておれたち二人を案内する村田。どことなく浮かれ気味な大人村田に着いていくと、すぐに立派なマンションに到着した。
「はい!ここが僕たちの家だよ」
「僕『たち?』」
「おっと!…まあいいじゃない。細かいことは気にしない気にしない」
とりあえず中入って、と本当に楽しそうにおれたちの背中を押す。
「おじゃましまーす…」
「お邪魔します…」
未来のとはいえ、自分の家に入るのでさえ律儀な村田。
「どうぞー。僕、お風呂の準備してくるね。ゆっくりしてて」
「いくら何でもそこまでは…」
「いいのいいの。その代わり、未来の『僕』にしてあげなよ?」
そう言って村田の頭をくしゃっとなでる村田サン…ってまぎらわしいな。
普通だったら絶対見れない光景をぼんやりと眺めながらお茶請けに出してくれたクッキーをつまむ。
「うまい…!」
「本当に?ありがとう、渋谷のお母さんから教わったんだ」
――それ食べて待っててね、と言いながら腰を上げた未来の村田の背を、今の村田と見送ったのだった。

□■□■□■

――side M

さくさくという音だけが響く。
さくさく。さくさく。
僕もクッキーをつまんで口に入れる。
「・・・おいしい」
「売り物みたいだよな」
「そうだね」
バターの匂いが口の中に広がる。
未来の僕、お菓子まで焼くんだ。
しかも渋谷のお母さんに教わるなんて・・・
純粋に、未来でも渋谷と一緒にいられることを知れて嬉しい。
さくさく。さくさく。
――それ以降、特にこれといった会話はなかったけれど、ほどよい沈黙が心地好かった。

□■□■□■

「はい、準備終わり!これで今すぐにでも帰れるよ。どうする?」
「村田、何かしたいことある?」
「ううん、ないよ。渋谷は?」
「おれも。・・・それにさ、やっぱり自分の未来知っちゃったらつまんなくなるじゃん?」
もちろん、全く興味がないって言ったらウソになるけれど。
「そっか・・・じゃあ二人とも、またね!」
「いろいろとありがとうございました・・・ってうわああああああああ!」
いたずらに成功した子どもみたいに嬉しそうに笑って、未来の村田に背中を押される。とっさに同級生村田の手を掴んだのを最後に、おれの意識は薄れていった―――

□■□■□■

「・・・や、渋谷ってば!」
「ん・・・?村田・・・?」
「そうだよ。ねえ、どうしたの?お風呂入ったきり出てこないってフォンクライスト卿が錯乱してたよ、のぼせたの?」

そう言っておれを見る村田。

こっちの世界ではあまりいない黒い瞳に吸い込まれそうな感覚。
ギュンターだけじゃなくて村田も相当心配させてしまったらしい。
なんだか申し訳ないけれど、村田が心配してくれたと思うと嬉しい。
「まだぼーっとしてる?水持ってこようか?」
「だ、大丈夫だから!ありがとうな!」
「そう?ならいいけど」
「そういや、いつ眞王廟から戻ったんだよ?何かあったのか?」
「え、えっと・・・、来ちゃった!迷惑だった?」
アヤシイ。一瞬の間は何だろう。
笑顔もなんとなくひきつってるし・・・。
「渋谷?」
「いや、何もないならよかった!」
だいたい村田が血盟城に来るときは何かが起こった場合が多いから、村田に何事もなさそうでよかったと心の底から思う。
「へんな渋谷」
――そう言って苦笑した村田に対する想いに気付くのは、もう少しだけ後の話。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ