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□冬くらいの話
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「っくしゅん!」
ずず、小さく鼻を啜りながらシンタローさんは不満げに口を尖らせた。コートに口元を隠すようにしながらすんすんとまた鼻を動かす。引きこもり生活のせいで不健康なほどに白い肌、それなのに鼻の頭は赤みを帯びていた。かすかに震えながら赤色のイヤーマフを直す。その手もいつもより赤い。
「シンタローさん風邪っすか?よわよわっすね」
「うっせ」
ばか。呟くたびに白い息が辺りに流れる。ふわふわ、ゆらゆら。服装に無頓着な彼のコートの下はいつもと同じような赤ジャージ、もうちょっと気にしてくれないかなあと思いつつ、俺はため息をついた。シンタローさんと同じように白が溢れた。
「……カップルばっか」
シンタローさんはむすりと頬を膨らませながら、噴水の近くでキスをしていたカップルを睨み付けた。歩いているうちに鮮やかなイルミネーションの施された広場に来てしまったのだ。俺たち以外、周りには幸せそうな男の子と女の子だらけ。シンタローさんはぶつぶつと文句をいいながら歩を早めた。
まだクリスマスまで1ヶ月以上あるというのに、街はすでに聖夜気分だ。キリスト様の誕生日なんて祝う気のない人たちが、雰囲気に飲まれて浮かれ合う。きっとそろそろ、女の子たちが手編みのものを用意し始めるのだろう。
「シンタローさん彼女いないんすよね?」
「……聞くな」
たったの三文字なのにその言葉の重みは凄まじい。シンタローさんの年齢=彼女いない歴、そんなに彼女が欲しいなら引きこもらなきゃいいのに。
俺は、シンタローさんにもたくさん魅力があると思う。本人に伝える勇気はないが、俺は彼に惚れている。顔立ちも整っているし、いざというときは頼れるし、なにより可愛らしい。始め自分の想いに気付いたときにはもちろん悶絶しながらホモの自分を嘆いたものだが、惚れてしまったものは仕方ない。諦めて受け入れてしまってからはもっともっと、惹かれ始めた。
今日シンタローさんを誘ったのも俺だ。
『ちょっと欲しいものがあるんでついてきてくれませんか?』と半ば無理矢理連れ出した。ちなみに目的はマフラー、真っ赤な長めのちょっと高めのもの。
いつの間にか、シンタローさんと俺の間に大きな距離が出来ていた。それが寂しくて駆け出す。もっともっと、近くにいたいな。
「シンタローさん!」
「あ?なに、わっ!?」
ぼふ、振り返ったシンタローさんの真っ正面から抱きつく。シンタローさんが後ろに倒れてしまわないように俺の方に引き寄せる。暖かい、太陽の匂いがする。
「お、おい、セト離れろって!」
「やだ」
腕の力を強めれば、困ったようにシンタローさんに胸をおされる。なんだか申し訳なくて渋々離れると、シンタローさんはきょろきょろ辺りを見回したあと安心したように息をついた。
「シンタローさん、今日はありがとうございました」
「あ、ああ……なに買ったんだ?」
「ちょっと目をつむってください」
シンタローさんは不思議そうに首を傾げながらも、すっと目を閉じた。このままキスしたらどんな反応をするだろう、そんな考えが頭を過ったが初めては見つめあってしたい。
鞄の中からマフラーを取りだし、シンタローさんの首に掛ける。くるくるとリボン結びにした。長めのものだからそれでもいくらか余りがあった。
「プレゼント、シンタローさん寒そうだったから」
俺が微笑めばシンタローさんは照れ臭そうに目をそらしながら頭をかいた。ぼそぼそと呟く声はまったく聞こえないけど、多分ありがとうって言ってくれてる。綺麗なカシミアの毛並みは、彼の艶やかな黒髪によく似合う。リボンも我ながらよく結べた。
こんなに綺麗で太い赤い糸で君と結ばれていたらいいのにな。

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